第32話 知りたければ

 私は、休憩時間にフリムド様と話していた。

 フリムド様は、私の心の内を理解しているらしい。

 そのような言葉は、簡単に言えることではないはずである。特に、私のような人間に言えるようなことではないだろう。


「理解してもらえているなら、嬉しいですが……あなたに理解してもらえるとは、思っていません。私のような特別な立場の人間の心を、あなたが理解できるはずはないでしょう?」

「おや……」


 とりあえず、私はフリムド様の言葉を否定しておいた。

 こうしておかなければならなかっただろう。妾の子の気持ちを理解しているなどという戯言は、否定しておかなければならないものだ。

 この教室には、たくさんの貴族達がいる。その人達が今の会話を聞いて、変なことを思ったりしたら大変だ。

 ここは、哀れな立場にある者を放っておけない王子という風に演出していた方がいい。その方が、フリムド様のためだろう。


「……そうかもしれませんね」

「……ええ」


 フリムド様は、私の言葉にゆっくりと頷いてくれた。

 反応から、私の意図は理解してもらえているように思える。フリムド様も、周りに変な誤解はされたくないはずなので、乗ってくれたのだろう。


「……そういえば、カルード様は元気にしていますか?」

「お兄様ですか? ええ、いつも通りの調子だと思います」


 そこで、フリムド様は話を変えてきた。

 お兄様の様子を聞いてくる。強引な話題転換だが、何か意味があるのだろうか。

 単純に、話題を切り替えたかったということかもしれないが、私は何か含みがあるように思えた。なんとなく、そのような雰囲気をフリムド様から感じるのだ。


「彼とは、もう長い付き合いですが、いつも通りということは本当に変わっていないのでしょうね……」

「長い付き合い?」

「ええ、知らなかったのかもしれませんが、僕と彼は友人です。年は離れていますが、僕にとっては最も親しい友人といって、差し支えないでしょうね」


 フリムド様の言葉に、私は目を丸くした。

 お兄様に友人がいるという事実がまず驚きだが、その相手がフリムド様であるというのは、二重に驚きだ。

 だが、考えてみれば、フリムド様はよくクーテイン家の屋敷を訪れていたような気がする。それを考慮すれば、そこまで驚くべきことではないのかもしれない。


「僕のことを知りたいなら、彼に色々と聞いてみるといいかもしれませんね。何しろ、彼は僕のことをよく理解していますから」

「……そうなのですね」


 そこまで話して、私はフリムド様の意図を理解した。

 要するに、フリムド様は自分のことをお兄様に聞けと言っているのだ。

 それなら、お兄様に色々と聞いてみることにしよう。

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