第28話 王子との再会
私は、魔法学校の入学式に来ていた。
当然のことではあるが、入学する学生と保護者は別々の場所で入学式に参加する。そのため、お兄様とは離れている。
「……」
一人というのは、それなりに緊張するものだった。
だが、公爵家の人間として弱みを見せる訳にはいかない。私は、心を強く持って、入学式に望むのだ。
そう思いながら、私は待機していた。入学式が始まるまでには、まだ少し時間がある。その間、私は待機場所として設けられている教室で黙って過ごしているのだ。
周りの人達は、色々と話したりしている。顔見知りか何かだから、話すことがあるのだろう。
当然のことながら、私には知り合いなどいない。だから、一人で黙って過ごしているのである。
「おや……」
「え?」
そんな私の前に現れたのは、見知った人物だった。
そういえば、この魔法学校に入学する中で、唯一知っている人がいたことを思い出した。第三王子のフリムド様である。
「お久し振りですね……クーテイン家の屋敷で会って以来ですから、一ヶ月ぶりでしょうか?」
「お、お久し振りです……そうですね、一ヶ月ぶりだと思います」
何を思ったのか、フリムド様は私に話しかけてきた。
確かに、お互いに認識しているが、別に私はフリムド様と親しい訳ではない。それなのに話しかけてくれたのは、フリムド様が優しい人だからなのだろう。
だが、正直言って、今は話しかけて欲しくなかった。只でさえ、妾の子と目立っているのに、フリムド様と話しているとさらに目立つ。それは、少し避けたいことだった。
現に、教室中の人達の視線が、こちらに集まっている。皆、公爵家の隠し子と第三王子が何を話すのか、興味津々なのだ。
「僕が言ったことが関係あるのかどうかはわかりませんが、あなたが魔法学校に入学することを選んでくれたのは幸いです」
「あ、はい……」
フリムド様は、自分が私を魔法学校に入るように誘導したことを仄めかした。
その言葉に、教室内は少しざわつく。大方、私とフリムド様がどのような関係性なのか考えているのだろう。
なんだか、少し厄介なことになってきた。フリムド様は純粋に話しているのだとは思うが、周りが変な風に誤解しておかしな噂でも広がったら大変だ。
「あなたには聖女になる才能があります。是非、頑張ってください」
「あ、ありがとうございます」
フリムド様は、さらに私が聖女を目指すことを応援してきた。
誰かに応援されるのは嬉しいことだ。だが、それを言った相手がこの人なのは、少々大変なことである。
聖女は、第三王子の婚約者になる可能性が高いらしい。その第三王子が個人を応援するというのは、色々とまずいことではないだろうか。
現に、教室がまた騒がしくなっている。なんだか、私のこれからの学校生活は、思っていた以上に大変なことになりそうだ。
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