第27話 堂々と歩み
私は、お兄様とともに魔法学校の前まで来ていた。
いよいよ、魔法学校の入学式が始まるのだ。
「さて、行くぞ」
「あ、はい……」
私はゆっくりと深呼吸してから、お兄様についていく。
ここから、私は色々な人の目に晒されるだろう。何を言われるかわからない恐怖があるが、心を強く持たなければならない。
「……堂々としろ。下を向かず、胸を張って歩け。それが、公爵家の人間としてとるべき態度だ」
「はい……」
お兄様に言われた通り、私は胸を張って前を見て歩く。
なよなよした態度でいると、舐められてしまう。公爵家の人間が舐められてはいけない。妾の子とはいえ、私は公爵家の令嬢である。威厳を持って歩かなければならないのだ。
「あれって……」
「ええ、確か公爵家の……」
私とお兄様が歩いていると、話し声が聞こえきた。
どちらかというと、注目はお兄様の方に向いている気がする。
だが、それは当然のことだ。妾の子である私の姿は、ほとんど知られていない。しかし、お兄様の姿は多くの人が知っている。だから、お兄様が注目されるのは当たり前のことなのだ。
「それじゃあ、もしかして……」
「ええ、あれが噂の……」
貴族達が、私の存在を知らないという訳ではない。
クーテイン家に隠し子がいたという事実は、ある程度知られていることだ。
姿は知らなくても、クーテイン家のお兄様の近くにいるということで、私の正体もばれてしまうのである。
「あれが……妾の子」
「クーテイン家の隠し子ですよね……」
「ええ……でも、堂々としていますね……」
私に対する小声の話は、途切れ途切れ聞こえてきた。
やはり、私が姿を見せるということは、彼ら彼女らにとって驚くべきことだったようだ。
それも当然だろう。通常なら、私はクーテイン家の汚点として外に出したくないものだ。
そんな私が、クーテイン家の次期当主であり、実質的には現在も実権を握っているお兄様と一緒にいるのである。それは、驚くべきことだろう。
「クーテイン家の汚点……」
「何故、このような場所に……?」
少数であるが、私を批判するような声が聞こえてきた。
だが、私が思っていたよりもそのような声は少ない。
しかし、考えてみれば、私は一応公爵家の令嬢。そんな私を批判することで、不利益になる可能性はない訳ではないだろう。
だから、クーテイン家と親しい貴族などは、あまり悪口を言えないのだ。少なくとも、私が近くにいる状況では話さないだろう。
逆に、クーテイン家を嫌っている者達は、私の悪口を言ってもおかしくはない。そういう人達が、今も私を罵倒しているのだろう。
「……わかっているな?」
「はい……」
私は、そのような罵倒も聞き流す。
あんな罵倒で、落ち込んでいる場合ではない。私はそう強い心を持ちながら、公爵家の人間として堂々と歩くのだった。
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