第21話 託されたもの

 私は、カルード様から自分の評価を聞いていた。

 どうやら、カルード様は私のことを嫌っていた訳ではないらしい。


「カルード様は、一体何を考えていたのですか?」

「その質問は、どういう意味だ?」

「えっと……カルード様が私を嫌っていなかったというなら、あのように罵倒されるのはおかしいと思います。いくら私に向上心がなくて見るに堪えなかったとはいえ、あそこまで罵倒していたのには、何か理由があるのではないかと思うのです」


 そこで、私は再度質問してみた。

 嫌っていなかったなら、どうしてあそこまで罵倒してきたか。それは、かなり気になる所である。


「ふん……まあ、最早隠しておく必要もないか」

「え?」


 私の質問に対して、カルード様はそのように呟いた。

 その言葉から、カルード様が何かを隠していたということがわかる。その隠し事が、私をあそこまで追い詰めていた理由なのだろう。


「俺はとある人物から、お前のことを頼まれていた。お前が立派に育つように補助して欲しいと懇願されていたのだ」

「ある人物……まさか!」

「ああ、お前の母親だ」


 カルード様の言葉は、衝撃的なものだった。

 お母さんが、カルード様にそのようなことを頼んでいたとは驚きだ。そのような話は、聞いたことがない。

 恐らく、お母さんが秘密裏に頼んでいたのだろう。自分が亡くなった後のことも、考えていてくれたのだ。

 その事実は、嬉しいものだった。ただ、その言葉で先程の問題が解決した訳ではない。お母さんに頼まれていたのに、カルード様は私を追い詰めていたのだ。口振りからして、私を潰す気はなかったとは思うが、どういう意図があったのだろうか。


「その願いを聞き入れないこともできたが、せめてもの情けとして、俺はお前を立派な人間に育て上げると決意した。だが、俺はお前を甘やかすつもりはなかった」

「甘やかす?」

「俺がお前の味方につき、お前を鍛え上げることもできただろう。しかし、そんなことをすれば、お前は俺に依存する可能性が高い。それは、俺の論では立派な人間ではない」

「立派な人間……」

「故に、俺はお前の敵に回ることにした。そうすることで、お前が自ら強くなるのを待っていたのだ。その前に折れたなら、別の方法も考えたが……その心配はいらなかったようだな」


 カルード様の言葉で、私は全てを理解した。

 私を強くするために、彼は私の敵に回ることを決意してくれたのだ。

 確かに、以前の私は優しくされたならカルード様に甘えていただろう。そして、そうなれば、私は駄目な人間になっていたはずだ。

 少なくとも、今のように強い心は持てなかっただろう。カルード様の判断は、正しいものだったといえる。

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