蜜蝋にキスを

まぁむ

第1話

例年よりも暑い夏がきた年、私は自宅で一人パソコンにむかって授業を受けていた。ダラダラと持論を並べる教師の話を垂れ流しながら冷凍庫にある二つにおるタイプの氷菓子を取り出しスマホを手に取る。ガリっとりんご味の氷を噛みながら、マッチングアプリを開き並んだ男性の写真を眺める。顔もほとんどわからないアイコンにいいねするこの男たちは何を思って私を右に流したのだろうか。カタログを見るようにスクロールし、ため息と共にアプリを落とした。



ことの発端はつい先日、あまり参加せず親しい人間もいないサークルの飲み会に参加した際に浪人したことを自慢のように話す男に処女であることをバカにされたことだった。ここ数年恋人がいないことを話しただけでここまでコケにされることがあるのかと、怒りを通り越して呆れを感じた。男の学年が上なだけに嫌味の一つも言えない自分を情けなく感じながら適当に相槌を打ち、串から外されて冷めた焼き鳥にごめんなと謝りながら口に運んだ。そして私は入って5回と顔を出していないサークルを辞めた。


処女であることは事実でそれをコンプレックスに思っていないかと言われればそうではない。だが自分でも厄介だと思うが、初めてセックスする相手が誰でもいいというわけではなかった。そのため、ムキになっていれたマッチングアプリも誰とも連絡を取らず眺めているだけのものとなった。



ぼんやりとしていると授業が終わっていたのか、ビデオチャットには私一人と教授だけが取り残されていた。

『すみません、アプリの調子がおかしいので抜けられませんでした。先生の方で会議を終了してくれませんか』

適当な嘘を書いたメールを送りパソコンを落としいつの間にか溶け切った氷菓子だった味の薄いジュースを飲み干した。


ここ数ヶ月で世間の自粛ムードも薄れてきていると言うのに、私はバイト先と自宅と大学の往復しかしていない。地方の国立に進学したため同郷もおらず、大学に特別親しい友人がいるわけでもない私には、SNSに載せられる夏の思い出など作ることは到底できないのだった。

しかしずっと家で引きこもっていると心が荒んでくる。これ以上卑屈になってどうするのだと自分に喝を入れ明日は早く起きてどこか出かけてみよう。気になっていたあの映画を見に行くのも、久しぶりに服を買うのも悪くない、と予定を膨らませて今日は早くベットに入ることを決めた。



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蜜蝋にキスを まぁむ @manahina

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