Re: Verus
イタリア人の同僚が行方不明になって、早くも一年の月日が経とうとしていた。俺は今、首都ブカレストの中心にある、凱旋門の辺りを歩いている。
「はい、分かりました。来週までに、資料をまとめておきます」
電話を終えて一息つくと、消えた同僚のことをふと思い出した。あいつと最後に会ったのは、ちょうどこのハロウィンの時期だった……。
「……俺があのとき、止めていれば良かったんだろうか」
……「休む」と言ったあいつの顔を見たとき、俺はどことなく違和感を覚えた。背筋がゾッとするような、ひどく冷たい感情だったんだが……、今となっては、もはや曖昧だ。
「はぁ……」
思わず暗い気分になった俺は、どんよりとしたため息を漏らし、近くのベンチに腰掛けた。一時間後には、仕事の打ち合わせがある。気分を切り換えなければ、どうにも乗り切れそうにない。
「お兄さん、大丈夫? ため息なんかついて、元気ないの?」
――そのとき、俺は突然、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると、そこには可愛い顔をした少年が、両手にチョコレート菓子を持って突っ立っている。
「ああ、ちょっとな……。いなくなった友人のことを、思い出していたんだ」
「ふーん、そっかぁ……」
胡桃色の髪の毛に、太陽のような真っ赤な瞳。彼は俺の顔を覗き込むと、愛想良くニッコリと笑った。
「それじゃあ、はい! このお菓子、お兄さんにあげる!」
そう言って手渡されたのは、ルーマニアで有名なブランドの、ブランデー入りのチョコレートだった。小さなパッケージの表面には、ポップなイラストが描かれている。
「悪いな、ありがとう。おかげで少し、元気になった」
「ふふふっ、どういたしまして!」
少年は嬉しそうにお辞儀をすると、俺の隣にちょこんと座った。……赤い瞳を細めて、ニコニコと笑いながら。
Phantasiaに住まう者ども 中田もな @Nakata-Mona
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