第23話 オレ③

「ただいま、マザー」


「あら、お帰りなさい、スヴァン。傭兵組合はどうだったの?見つけられた?」


「はい、大通りで衛兵に聞いたら教えてもらえました。東大通の途中から北大通へ抜ける道があって、その途中にありましたよ」


「まあ、そうなのね。今度から私も道に迷ったら衛兵さんに聞くことにする。それにしてもそんなところに道があったのねぇ。あっちの方は全然行かないから分からなかったわ」


「それで傭兵組合で親切なお兄さんに傭兵のことを色々と教えて貰ったんですけど、傭兵だけで生活を成り立たせるのは難しいみたいです。他の仕事もやった方が良いですよ、ってこっそり教えてくれました」


「あらまあ。でも、そう言えばそうね。最近は戦争も無いし、外で山賊や盗賊に襲われた話もほとんど聞かないから、傭兵さんのお仕事って減ってるわよねぇ」


 物騒な単語が並んでるけど、マザーが喋ると全然物騒に聞こえないから不思議だ。


「それで、スヴァン。あなたはどうしたいの?お姉ちゃんが聞いてあげる」


 お姉ちゃんと呼ぶように強要された気がするが、ここは鉄の意志で拒否しよう。


「何故だか傭兵にならなければいけない気持ちなんです。何か、こう、使命のような気がして」


「そう、使命を感じているのなら心に従った方が良いでしょうね。これも神の思し召しかも知れないわ。でも、そうなると他の仕事も考えなくてはね。お姉ちゃんが相談に乗ってあげるわよ?」


「おねえ……、いや、マザー、ありがとうございます。でも、まだどんな仕事が良いか全然思い浮かばなくて。もう少し考えますから、そのときには相談に乗ってください」


 危ない危ない。危うくお姉ちゃんトラップに引っかかるところだった。


「むー……。分かったわ。また相談してね。お姉ちゃんと呼んでくれるまで待ってるから」


 マザーは少しむくれた顔でそう言ってくれた。ところで、お姉ちゃんと呼ぶ相談なんてしてたかな?



 傭兵組合に下見に行ってから数日が経った。

 兼業をどうするかまだ決まってないけど、方向性は決めないと。

 孤児院のお使いがてら町中を観察しながら考える。


 普通に傭兵業をしていたのでは、頻繁に組合に顔を出して依頼に受注希望を出すか、組合の配分に任せるより他ないだろう。受注希望を出しても同じ依頼に複数名が希望したら、実績のないオレが選ばれるとも思えない。

 あとは有料だけど研修も受けないと、ド素人のまま依頼を受けて評判が悪くなってしまう。お金も今から少しずつ稼がないとダメだな。


 うーん、そうすると、依頼を出しそうな人と顔見知りになっておけば、指名してくれるかも知れないから……、貴族……と顔見知りになるのは難しいからやめておいて、護衛か警備の依頼を出しそうな商人も含めて色々な人が立ち寄りそうで、成人する前から働けそうな仕事、尚且つ、傭兵の仕事が入ったときに休ませてくれるところが良いのかな?

 

 となると……


 食堂か。


 そう考えながら噴水広場に差し掛かったとき、最初に目に入った食堂では衛兵、職人風の男、大きな荷物を抱えた行商人風の2人組が美味しそうに食事を楽しむ様子が見えた。


 やはり噴水広場の食堂ならば色々な人が立ち寄りそうだ。あとは繁盛していて人手が足りていなさそうで、成人前の子供が働いているお店を探してみよう。


 やることが分かってきたから、一度マザーに相談してみよう。



「ただいま!マザー!」


「お帰りなさい、スヴァン。今日は何か良いことでもあったのかしら?」


「やっぱりマザーには分かりますか」


「ええ、皆のお姉ちゃんですからね」


「お姉ちゃんはさておいて、オレ、しばらく食堂で働こうと思います」


「あら、そう、お姉ちゃんって呼んでくれないのね。お姉ちゃん、寂しいわ。これが反抗期っていうものなのね……」


なんか、相談内容変わってる?


「ええと……、食堂で働こうかと思うんですけど、どう思いますか?」


「そうね、良いと思う。料理を覚えたらお姉ちゃんにご馳走してね」


「はい、分かりました、マザー」


「ムッスー。ところでどこの食堂で働くか決まったの?」


 マザーはお姉ちゃんと言われないことで若干機嫌が悪くなっているようだが、ここは鋼鉄の意志で無視をしなければ。


「まだ決まってないんですが、噴水広場に何軒かあるので雇ってくれるかどうか聞いてみようと思います。あの……、それで……」


「ん?どうしたの?」


「無事に見つかれば成人前から働こうと思うんですが、良いでしょうか?ここの手伝いが出来なくなるかも知れませんが」


「ええ、勿論大丈夫よ。成人したらここから出ないといけないんですもの、今から働くのは良いことだわ」


「ありがとうございます。明日から早速、仕事を探しに行ってきます」

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