第22話 オレ②

 マザーにもう一度傭兵組合の場所を聞いたが、詳しくは知らないとのことだったので、街の人に聞くことにした。人が多いところに行けば、知ってる人が一人くらいはいるだろう。


 領都イヌイの目抜き通りは南西の城門から西大通という名前で噴水広場のある街の中心部へ向かって北東に延び、中心部からは少し北に角度を修正して北大通という名前になって北東の城門まで続いている。この他に中心部から南東の城門に向かう東大通もある。東大通も賑わっているが、西大通や北大通ほどではない。

 南西の城門はアシハラ湖を西回りに王都アシミヤへ向かう街道に繋がり、途中には交易の中継都市として栄えているヨシミズがある。

 北東の城門は古い宿場町のツチダを経由して隣国の神聖リヒトへと延びる街道に続き、南東の城門は良質なワインの産地として知られるフタマタという町に続いている。フタマタから東に街道を進めば大国のドリテ王国方面へと続き、南に街道を進めばカワトの町を経由して王都アシミヤの東門へと至る。


 マザーは目抜き通りと言っていたが、誤って伝わっている可能性もあるから、噴水広場で聞くのが無難だな。

 そう考えたオレは、西大通から北に入ったところにある孤児院から噴水広場まで出て、キョロキョロ見回して傭兵組合を知っていそうな人を探したが、探し始めてすぐに、城門の近くなら商隊が雇った護衛の傭兵がいるかもしれないと考え直して、ひとまず南東の城門に向かった。


 南東の城門に向かっているうちに、今度は衛兵なら知っているだろうと思い立ち、東大通を巡回中の衛兵を呼び止めて聞いてみた。


 やはり衛兵は街の主要な施設はほとんど覚えているらしく、すぐに教えてくれた。

 噴水広場から南東の城門の中間辺りの北側の角に花屋があり、その角から斜めに北大通の中間辺りまで、大通りほどではないが、それなりに幅の広い道が抜けていて、その通り沿いにあるとのことだった。

 道を教えてくれた衛兵にガッと両肩を掴まれて、衛兵にならないか誘われたけど、夢の中で暗殺をしていたのが兵士だったためか兵士になる気にはなれず、どうにか振りほどいてお断りした。



 肩がまだ少しヒリヒリするが、あの衛兵の言う通りに花屋の角を曲がって歩いていたら、向かって右手に大きく「傭兵組合」と書かれている看板のある3階建ての小綺麗な建物を見つけた。

 古臭い建物に入ってあまり目につかないような場所にあると勝手に思い込んでいたので、少し衝撃を受けた。

 頑丈そうな両開きの扉があるが、今は開け放たれており、受付と思われるカウンターにははっきりとは分からないが人影のようなものが見える。

 ドキドキしながら勇気を出して中に入ると、

「よぅ、坊主!何か用か!」

 突然、カウンターにいた筋骨隆々のおっさんに大声で声をかけられた。

 

「! ひゃ、ひゃい!オオオオオレ、傭兵になりたたたいので、色々教えてくださっさい!」

 ビックリした。声で暗殺されるところだった。


「おお!そうか!ちょっとそこで待ってろよ!他の奴に説明させるからよ!」

 さっきからずっと声がでかい。この大声が地声なんだろうか。


 指定された椅子に座って暫くすると、おっさんが奥から普通の若いお兄さんを連れてきた。

「じゃ!説明よろしくな!」

 おっさんはそう言って受付カウンターに戻っていった。


「君は傭兵志望で、傭兵について説明を聞きたいということで良いかな?」

 おっさんが連れてきたお兄さんは普通の声量で話しかけてきた。

 大声の人じゃなくて心底ほっとした。


「はい、オレ、スヴァンって言います!よろしくお願いします!」


「ちなみに年齢は?まだ20歳前に見えるけどおいくつかな?」


「14歳です!」


「おや、若いですね。珍しい。じゃ、説明しますね」



 若いお兄さんが説明してくれた内容は大まかに言うとこうだ。


 15歳にならないと組合に加入できない。

 組合が窓口になって仕事を受け、希望者か組合が指定した人に仕事をやってもらう。

 依頼主に気に入られれば指名されることもある。

 仕事の内容は、・お屋敷などの警備、・貴族や商人などの護衛、・狩猟の手伝い、・害獣駆除、・野盗や山賊などの討伐。

 戦争が起こった場合は兵士としての参加もある。

 他の仕事と掛け持ちしても良い。

 傭兵組合は国ごとに違うので、他国に移住して傭兵を続けたい場合はその国の傭兵組合に加入する必要がある。


 やっぱり15歳にならないと入れないのか。

 お兄さんによれば、有料だけど組合員向けに武芸指南や警備、護衛の研修も行なっているそうだ。

 それから、最近は平和だし治安も良いから組合員の数と比較すると仕事の依頼が少なくて、他の仕事と掛け持ちした方が良いですよ、と小声で教えてくれた。


 傭兵だけで暮らしていけるわけではないんだ。良い情報が聞けたな。


 お兄さんと大声のおっさんにお礼を述べ、15歳になったら傭兵組合に加入することを伝えてその場を後にした。


 さてと、他の仕事と掛け持ちした方が良いとなると、他の仕事も見つけないといけないんだな。

 どんな仕事が良いんだろう?


 花屋、パン屋、粉屋、肉屋、八百屋、金物屋、行商、小間物屋、うーん、うーん……。

 あ、鍛冶屋、大工、石工、金工、皮革職人、木工職人、猟師、漁師、農家……、酒屋と食堂もあるな。

 そう言えば、服って布を買ってきて縫うんだから、布屋もどこかにあるのか。


 うーん……


 傭兵と掛け持ちするには何が良いのだろう?


 そんなことを考えながら街を観察していたけれど、孤児院に帰ってきてしまった。

 何が良いかなんてすぐに決められないな。

 色々考えてから決めることにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る