第21話 オレ①

 オレの名前はスヴァン。今年14歳になった。

 オダ家の領都イヌイにある孤児院にお世話になっている。

 マザーの話では、赤ん坊のころに目抜き通りの路地裏にボロ布に包まれて捨てられていたらしい。ボロ布にスヴァンベリと書かれていたのでそのまま名前にしたという。

 普段はオレも皆もスヴァンと略している。

 

 覚えていないが、14歳になったばかりの頃に気を失ったことがあるらしい。

 そのときにうわ言で1573年とか1623年などと呟いていたと聞かされた。


 1573年?1623年?何だっていうんだ、今はまだ1562年だぞ。


 夢でも見ていたのだろうか、それ以来、自分の身は自分で守れるくらい強くなりたいと思うようになった。孤児院の年長者としてのお手伝いの合間を縫って、衛兵の訓練所にコッソリ忍び込み、見よう見まねで武芸の訓練もしている。

 一度、訓練所で筋骨隆々の男に見咎められて、名前と孤児院にいることを話したら稽古をしてくれたこともあったが、なぜか衛兵になろうという気持ちにはならず、いつしか傭兵になりたいと思うようになっていた。



 いよいよ来年は成人して孤児院を出なくてはならないので、今日は成人したらどうしたいかマザーと話をしている。

「スヴァン、いつもありがとうね。とても力持ちでよくお手伝いしてくれるから、とても助かっているわ」


 マザーは年の頃30歳半ばくらいだろうか。シェスト教の司祭だと聞いたことがあるが、法衣は纏っておらず、亜麻の白いシフトドレスの上に草色のステイズとスカート、草色の頭巾と、質素な庶民の服装をしている。

 いつも穏やかな顔をしているが、マザーの服にカエルを投げ込んだときなどには鬼のような形相で怒られたものだ。


「いえ、マザー、お礼を言うのはオレの方です。マザーが拾ってくれなければ路地裏で野垂れ死んでいました」


「あら、そう?それでもありがとうね。あなたが居なくなるのは寂しいのだけど、成人したら一人で生きていけるように送り出すのも孤児院の仕事だから、あなたがどうしたいか教えてくれるかしら?」


「はい、傭兵になろうと思っています」


「私としては危ないことはして欲しくないのだけど、あなたの体格なら向いていそうね。応援するわ」


「ありがとうございます」


「ところで、傭兵になるにはどうすれば良いか知ってる?」


「あ……、あー……、分かりません」

 迂闊だった。そもそも傭兵になるにはどうしたら良いんだ?


「私も詳しくは知らないけど、目抜き通りから一本入ったところに傭兵組合があるから、そこで聞いたら教えてくれそうね。分からないことは知っていそうな人に聞くことも生きていくには大切なことだから、成人になる前に一人で行ってみてね」


「分かりました、マザー。早速明日にでも行ってきます」


「そうね、早い方が良いわね。迷子になったら近くの人に道を聞くのよ?」

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