第13話 ボク⑬
伯父からの仕事は、クニヒトとして領地の一部を管理してもらいたい、というもので、領都のイヌイから北に半日も経たずに行ける、街道沿いのツチダという宿場町と、その近隣の農村の管理を頼まれた。
当然のことながらいきなり全てを任せられるはずもなく、クニヒトになるための実地訓練としてオダ家が直接管理している領地に代官として赴任し、補佐としていつもの執事が、あの若い執事が付けられた。
「有力者との面会も一通り済みましたが、いかがでしたか。坊ちゃん」
「何を話して良いか分からないし緊張するしで大変だったよ」
ボクたちは、ツチダの町長と近隣の農村の村長たち数名に挨拶した後、宿場町の中心部から少し離れたところにある代官屋敷の執務室で話しをしている。
執事は領都のお屋敷にいるときとは違って、チャコールグレイで合わせた丈の長いハッキングジャケットとベスト、膝下までのニッカボッカーズ、バンドカラーの白いシャツ、アーガイル柄の靴下という出で立ちだ。外出の際は色を合わせたハンチング帽も被っていた。
補佐役としての服装なのだろう。
「そこは慣れですな。日常会話ができるようになれば、通常は報告がないようなちょっとした変化も、話の中から見えてくるようになるものです」
「普通に会話を出来るようにすることが大事なんだね」
「左様でございますな。あとは、一般的な事務仕事は主にわたくしめが行ないながら、坊ちゃんにも少しずつ行なって頂くようにいたします」
「うん、分かった。よろしく頼むよ」
「それから、」
「まだ、何かあるのかい?」
「ございます。この町に常駐する衛兵ですが、領都がすぐそばにあることもあって、15名しかおりません」
「それって、うーん、やっぱり少ないのかな?」
「今は戦争もありませんし、平時であれば問題はない人数ですが、しばらくこの屋敷を使っていなかった上での人数ですから、ここも警備するとなると十分ではないですね」
「前の人はどうやっていたんだい? ボクの前にも代官が居たんだよね?」
「はい、居りましたが、衛兵の給金節約のために必要なときだけ町や村に来て、普段は領都で暮らしていたそうです。近いですからね」
なるほど、そういう方法もあるんだ。ボクもお屋敷から通おうかな。
「それは駄目ですよ、坊ちゃん」
「うわ! 何も言ってないのにどうして分かったんだい?」
ビックリして変な悲鳴を上げてしまったじゃないか。
「女の勘というやつです」
あれ??? 男だったよね?
「今回の赴任は、お一人で状況を判断して、決断をするための訓練も兼ねているのです。ですから、余程のことが無い限り、領都のお屋敷に戻ってはなりません。ビシ!」
自分で効果音付けたよ。
「そう言うわけで警備の人手が足りておりませんので、宰相閣下の命により領都の傭兵組合に依頼をして、この屋敷の警備を増強することになりました」
「へぇ、傭兵。一度見てみたいな」
「そうおっしゃると思いまして、今は非番で待機させてあります。ただいま呼んで参りますね」
執務室から執事が出て行ったあと、程なくして二人分の足音が入って来た。
執事と一緒に部屋に入ってきた男は、恐らく普段着であろう衣服を身に着けていた。身長は執事より少し高く、180センチくらいだろうか。よく鍛えられた筋肉と浅黒く日焼けをした肌が頼もしく見える。年齢は執事より5歳くらい年上かな。
が、傭兵と思しき男は部屋に入ってボクを見るなり、ひどく驚いたような顔をして固まってしまった。
「こちらが警備を担当する傭兵でございます」
執事がボクに紹介したが、その男はまだ固まっている。
「ささ、挨拶を」
執事が挨拶を促すと、彼はハッとした様子でようやく口を開き、
「オレは傭兵組合より派遣されましたスヴァンです。主に衛兵と一緒にお屋敷を警備します。よろしくお願いします」
「よろしくね。スヴァン」
そう言って握手したスヴァンの手はとてもごつごつしていた。
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