第12話 ボク⑫
15歳になった。成人した。
ボクの目の前には、今、伯父がいる。
色々と話さなければならないことがあるということで、お屋敷の伯父の執務室で話を聞いている。
「2つ、お前に話さなければならないことがある」
前置きらしい前置きもなく、屋敷では見たことのない厳しい顔で切り出してきた。
「お前の父を殺したのはこの俺だ」
え? 父? え? え? 殺した? え? 殺した? え? え? え?
「すまん」
伯父はそう言って頭を下げた。
「頭を上げてください。伯父上。ボクには父の記憶が無いのです。伯父上を実の父親と思ってこれまで生きてきましたし、それはこれからも変わりません」
突然の話で混乱したが、そもそもボクには父の記憶が存在しないし、母の記憶もまた、存在していない。小説や町中などで他人の「父」「母」を目にしても特に気にせずにこれまで生きてきた。実感がわかないのは、どこかで別世界のものだと思っていたせいもあるのだろう。
「そうか。本当に申し訳ないことをした。謝っても謝り切れないが、そう言ってもらえて幾分か救われた」
顔を上げた伯父の顔はかなり疲労しているように見える。
「お前にもう一つ謝らねばならないことがある。俺がお前の父を殺害した理由と、お前の母の所在は話せないのだ。すまん」
伯父はそう言ってまた頭を下げたが、今度はすぐに顔を上げた。
「亡くなった父のことはどうにもなりませんので理由を知りたいと思いませんが、ボクの母は生きているんですね?」
「ああ、その通りだ。生きている。お前の母親の気が変わったら、住んでいるところを教えても良いという話になっているのだよ」
「母が生きているのならお会いしたいのですが、そうですか、気が変わるのを待つしかないですね」
「こちらからは定期的に手紙でお前の近況を送っているから、その内、気が変わるだろう」
自分の夫を殺した相手に子供を預けて、近況報告の手紙をもらう心境とはいかばかりのものなのか。そして、父が殺された理由というのはなんだったのだろうか。
知りたいと思わないと言ったものの、それはやはり気になるものだった。
「ところでもう一つの話だが、家督の件だ」
家督の件? 二人の内どちらを支持するか聞きたいのかな?
「お前、家督を継ぎたいか?」
とは言っても、俺の子供たちより順位は後になるから4番目だけどな、と伯父は付け加えた。
「……えっと? ボクに家督の継承権があるんでしょうか?」
「え?」
ボクが事情を呑み込めていないような返事をしたことに、伯父は驚いたようだった。
「あー、そうか、そういう事か。俺としたことがそういう事かー」
何か納得したようだ。
「説明する前に一応確認しておくが、お前、伯父の意味、知ってるか?」
「はい。養父のことです」
「……あー、うん……うん、分かった、分かった……」
何が分かったのだろう。
「まず、伯父の意味だが、お前から見て父親か母親の男の兄弟のことだ」
何だって! ずーっと養父のことだと思ってた!
自分でもびっくりした顔をしていることが分かるくらいに、びっくりするボクをよそに伯父は話を続ける。
「お前の父親は俺の実の弟だ。家督のすじに継ぐ子供がいなくなってしまった場合には、その兄弟のすじが家督を継げるから、お前にも一応家督の継承権があるということになる」
「そうだったんですか。今、気持ちを整理しますから、少し待ってください」
伯父は小さく頷いた。
元々、家督のことについては何も考えていなかったから、返事は決まっている。
伯父の長男は優秀だと評判だし、次男も長男には劣るものの評判は良く、成人と同時に若くして結婚をしていて子供が生まれるのも時間の問題であることを考えると、順位の低いボクに家督を継ぎたいか聞く意味が分からない。
それはそれとして、やはり父と伯父の関係だ。
家督を継ぐのは男子から女子の順、同性間では年齢順だから弟を殺害する意味などあるのだろうか? 戦乱の時代には兄弟間での殺し合いは珍しくなかったみたいだけど、今は落ち着いている。父が伯父に殺害された理由が分からない。ますます気になってきた。
が、伯父が話せないとなると相当な理由があるのだろう。
「家督を継ぐつもりはありません」
父のことはさておき、ひとまずそのように答えると、伯父は、
「そうか、分かった」
と少し残念そうな安堵したような複雑な表情で返事をした。
おや?期待していた答えと違ったのかな?
それならばと、
「家督の継承権は放棄します」
と言ってみた。
「……そうか、分かった。お前に任せたい仕事があるが、準備があるからまた別の日に話をする」
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