第3話 音信不通

 圭吾に対しても、そうだった。

 圭吾の方が私を想ってくれている。それは常日頃つねひごろから感じていた。わかっていた。そこに胡坐あぐらをかいていた。


 圭吾には、寂しい思いをさせてきた。それをどこかで見て見ぬふりを続けていた。

 むしろ男の圭吾に、寂しいなどとは言わせない。

 無言の圧をかけてきた。


 それが今に繋がった。

 年末年始に恋人の声すら聞けない。音信不通にされている。


 

 恋人同士なのだから、傍若無人ぼうじゃくぶじんが許される。

 おごり高ぶり、いい気になっていただけだ。自分は圭吾に尽くしていたと言えるのか。


 麻子は枕元の携帯を手探りで探り当て、ラインを見た。メールを見た。電話の着信記録も確認した。

 元旦は、毎年互いに実家に帰っていたけれど、電話で必ず「おめでとう」を言い合った。「今年もよろしく」。少し照れて、それでいて、かしこまった挨拶をくれる恋人を、愛おしいと思っていた。


 鳴らない電話は、どんなに待っても鳴らないことを知っている。

 それも全部、自分が元凶。

 


 返事がないのが恐いから、昨日も一昨日も圭吾に連絡しなかった。彼からの折り返しの連絡を、祈りを込めて待っていた。けれども願いは届かない。

 何もかも手遅れなのかを確かめたいのに、無言で拒絶されている。

 話をする気になれないと、思われてしまうまで、圭吾を怒らせ、悲しませたのだ。


 結婚したいと言ってくれていたのにと、麻子は少女のように泣き崩れていた。



「あんた、ほんまもんの寝正月やね」


 洗濯を済ませた母にからかわれたが、出来るだけ小さくはなをすすりあげるだけ。居間に戻った母親が、こたつに足を入れてきた。一瞬中が、ひやりとした。

 そのうち、蜜柑みかんの香りが居間に漂う。テレビ番組をリモコンで忙しなく操作する母。

 

「元旦は、どこもおんなじような番組やさけぇ。ぶちつまらん」

 

 と、ぼやいている。

 毎年同じでいられる尊さ。自分はそれを尊いものだと感じることもなかったぐらいに、いい気になってた。つけあがり過ぎていた。


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