第5話 資格がない
確かに自分はアメリカで、解離性人格障害と診断されたクライアントのカウンセリングを受け持った。
また、羽藤には通院が必要だと考えてもいた。
有能なカウンセラーに、しかるべきカウンセリングを受けるべきだとも思っていた。
だけど、私にはそんな資格はないのだと、口にしかけたその刹那、麻子の言葉尻を奪うように、
「もちろんカウンセリングは長澤さんにお願いするけど、カウンセリングの後は僕も診察するから。一緒に羽藤さんの力になれるように頑張ろうよ」
麻子の強張る肩を、駒井はポンと励ますように叩いて述べた。それでも「はい」とは、頷けずにいた。
これまで麻子は駒井に依頼されたカウンセリングを、断ったりはしなかった。
日本では児童への性虐待の報告が、他国に比べて特出している。また、それは家族によるものが大半だ。しかもレイプは日常と化している。
女子供は、いたぶってもいい。
そんな男尊女卑が令和になっても、ある種の文化として面々と、継承される国なのだ。
今の自分のキャリアでは、荷が重すぎると感じても、その重責に堪えてこそのカウンセラーのだと思っていた。
けれども麻子は、ためらった。
自分が引き受けられるかどうかではなく、引き受けていいのかどうかで葛藤した。
頭の中では早く断らなければと思っているのに、その一言が喉につかえて言葉にできない。
しかし、駒井は言うだけ言って退散とばかりに背を向ける。麻子に呼び止めさせない圧を背中で発しつつ、院長の診察室に向かっていた。
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