第7話 レシート済

 だが、麻子はレシートのたぐいは受け取らない。紙ごみになるだけだ。

 それなのに、どうして入れてあったのか。

 拾い上げた麻子は、何を買ったレシートなのかを確認する。商品名の一番上は唐揚げ弁当、その下は即席のカップの味噌汁。


「はあ?」


 麻子は頓狂な声を張り上げる。それだけでもうこれは、自分の買い物のレシートではないとわかる。

 コンビニの唐揚げ弁当なんて、買わないからだ。鶏皮が苦手で食べられない。だから、買うのは大概麺類だ。既に怖気おぞけがしていたが、麻子は読まずにいられない。


 弁当に味噌汁。メロン味のクリームを挟んだ菓子パンとスナック菓子数袋。使い捨てカイロと、そして最後に缶ビール。

 圭吾の整体院から徒歩一分の距離にある、F店の住所がレシートに記載されていた。


「何だ? どうした? また何か変なのか?」

 

 麻子が食い入るように見つめたまま、声も出せなくなっていると、圭吾が麻子の手からレシートを抜き取った。

 レシートに残されたビールと、部屋にあったビールの缶が同じかどうかはわからない。だから、これが侵入犯の痕跡かどうかの判断は、この後の捜査で事実が判明するまで待つべきだ。麻子の中でもう一人の自分が冷静になれと諭していた。

 


 だが、レシートに記された購入時刻は、午後十時三分。

 もう、その時には圭吾に施術を受けていた。施術に入る前に時計を見て、午後九時五十五分だったことを確認した。


 けれど、圭吾の整体院に寄って帰宅して、リビングのソファに置くまでは、ずっとバッグは持っていた。

 目を離したのは、施術を受けた三十分だけ。

 そして、整体院に到着した後、院の玄関に鍵をかけたのは自分なのだ。

 

 その間、バッグは消灯した待合室の長椅子に放置したとはいえ、スタッフは全員帰宅していた。

 あの時、院内には自分と圭吾しかいなかった。


 それなのに誰が一体どうやって、戸締りされた整体院のバッグから財布だけを抜き出して、気ままにコンビニで買い物を済ませ、受け取ったレシートを財布にわざわざ残し、バッグに戻したというのだろう。

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