第6話 標的

 マンション六階の外廊下に、警官が麻子と圭吾を待機させ、手袋をして玄関ドアを引き開ける。麻子が預けた鍵を使っていた。施錠はされたままだった。


 だが万が一、まだ犯人が潜伏している場合を考慮して、麻子と圭吾は呼ばれるまで入室しないように言われている。

 圭吾はドアの鍵穴に携帯を向け、写真を撮る。



「普通に鍵、使えるみたいだし。無理やりこじ開けられてる感じはないよな」

 

 圭吾は麻子に視線を戻し、問いかける。

 

「ストーカーされてたとかさ。何か心当たりある? ストーカーが勝手に合鍵作るって話も、よく聞くし」

「ないよ、そんなの。全然ない」

 

 ストーカーの大半は、かつての交際相手か結婚相手だ。

 だから、麻子にはその心当たりが全くない。過去の交際でも、こちらから強引に別れた男はいなかった。

 

 もちろん面識のない相手にストーキングされるケースがない訳ではない。

 それでも無言電話や尾行など、そういった気配を感じたこともなかったと断言した。


「……盗みに入って物色してたら、住人帰ってきちゃって出るに出られなくて隠れてたって言うんなら、風呂入ってる隙に逃げるだろ、普通。なのに、なんでこれ見よがしに缶ビールなんて置くかな」

 

 と、思案にふける呟きが、再び肌を粟立てる。

 もしかしたら、自分が呑気にシャワーを浴びている間、侵入者がリビングでビールを呑んでいたかもしれないのだ。しかも、侵入者が持参しただろう缶ビールを、だ。

 

 まるで気づかれないことを勝ち誇っていたように、わざわざ呑んで置い去った。

 

 ふつふつ湧きあがる嫌悪感と屈辱に麻子が歯噛みしてると、圭吾が思い出したように「あっ」と、言った。


「お前、カード! クレジットカード」

 

 何か盗まれているとするのなら財布だろう。


「そんなの交番で確認したわよ!」


 八つ当たりでもするように、圭吾に麻子は怒鳴り返した。

 バッグを開くと、中身を廊下にぶちまける。化粧ポーチや携帯と一緒に、長財布も転がった。

 圭吾がそれをひったくるように手に取って、カードの有無を確かめる。

 銀行のキャッシュカード。クレジットカードも健康保険証、車の免許証も全部スリットに入っていた。圭吾の安堵の息が小さくもれた。


「……だから言ったでしょう。そんなこと警察の人に一番最初に訊かれるわよ」

 

 犯人の目的は金品ではなかったのか。

 だとしたら、麻子本人だったことになりかねない。それはそれで別の恐怖を生み出した。渋面を浮かべる圭吾に差し出された財布を受け取ろうとした時だ。


 麻子の足元にレシートが、はらりとこぼれた。

 拾って見ると、コンビニのレシートだ。

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