第2話 異分子

 あの年齢で付き添いの大人を伴わず、一人で心療内科に来ているのなら、初診ではないはずだ。初診であれば、保護者に付き添われて来る。


 また、心療内科という特殊性から本人も顔を強ばらせ、もっと所在なげにおどおどしているものなのだけれど、彼はどこか飄々ひょうひょうとして、掴みどころがないような雰囲気をかもしている。

 


 身長は、百七十センチ前後だろうか。

 どちらかというと痩せ型ではあるものの、病的なまでに痩せてはいない。

 清潔にカットされた癖のない黒い髪。ほっそりした高い鼻梁に円らな双眸。

 薄い唇に華奢な顎。横顔は中性的で端正だ。

 

 ダッフルコートを脱いで丸めて抱え持ち、彼は、混み合う待合室を悠然と見渡した。 

 コートの下は黒のニット。そしてジーンズにスニーカー。

 服装に、これといった特徴はないのだが、頭が小さく足が長い。スタイルと顔立ちだけでも、充分人目を引くだろう。

 

 駒井クリニックの待合室のクライアントの、薬物依存症者やアルコール依存患者は落ち着きがなく、血走らせた目で周囲をぎょろりと伺い見ている。


 かと思えば、鬱や強迫神経症患など、排他的な者の多くは、人目を避けたいがために、息を凝らして俯いて、ひたすら診察の順番を待っている。

 


 定職に就くことが難しい、彼らの多くは生活にも困窮こんきゅうし、髪はボサボサ。上着もズボンも何年も着込んだかのように、擦り切れていたりする。

 身形に構う精神的余裕も、経済的余裕も失くしている。



 そんな中、表情も物腰も柔らかで、品のいい微笑みさえたたえた彼は、心療内科の待合室では、浮いていた。


 しかし、彼がクリニックのクライアントだという記憶はない。だとしたら、どこか別のクリニックからの転院だろうか。


 麻子はいぶかりりながらもスタッフルームの中に入り、戸を閉じた。


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