pommade

pommade 1

 嗚呼、柔らかい。


 柔らかいものは数あれど、こんなにも魅惑的なものはこの世にはない。


 柔らかいだけでなく、その奥にある確かな弾力。


 愛おしい。


 甘噛みをする。


 甘い蜜のような味が口いっぱいに広がる。


 僕は興奮でいっぱいになって、夢中で彼女の唇に自分の唇を、歯を、舌を押し当てる。


 幾度も甘噛みを繰り返していると、思い切り噛んでみたい衝動に駆られる。


 少し強めに噛む。


 舌や唇で触れただけでは分からない、確かな歯応え。


 これが堪らなく好きなのだ。


 嗚呼、もうこのぷっくりとした唇を無茶苦茶にしてやりたい。


 僕は獣のような咆哮を聞く。


 気がつくと、彼女の魅惑的なぷっくりとした唇はいつのまにか無くなっていた。


 誰がこんな酷いことを。


 きっと獣の仕業だ。


 僕は怒りに打ち震えながら、奥歯を噛み締める。


 奥歯には何やら柔らかいものが挟まっていて、噛み締めた途端に、肉汁のようなものが口いっぱいに広がった。


 嗚呼、そうか。


 獣は僕自身なのか。


 目の前に倒れる彼女を見る。


 歯を剥き出しにして、笑っているようだった。

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