第20話 積み木遊び -エピローグ 再誕-

 ここはT大学。


 東京郊外のK市にある、4年制の大学である。


 大学の歴史は古く、メインキャンパスの外観は、その歴史を感じる荘厳な佇まいである。


 そんな雰囲気のため、たびたび映画のロケ地としても使用されている。


 そんな大学の敷地内、池を臨むベンチに南 孝宏は座っていた。


 あの、積み木遊びの怪談に巻き込まれ、人生観を大きく変えることになった男である。


 彼は、茫然自失といった感じで池を眺めていた。


 彼が大学にやってきたのは実に1ヶ月ぶりである。


 彼は今日、退学届を提出しにきたのであった。


 彼を見つけた学友らしき人物が、彼の元に駆け寄り、隣にどかりと腰掛ける。


「おっす。南」


 ひどく、緩慢な反応で南は答える。


「なんだ、小林か。」

「ご挨拶だな。最近店に来ないじゃん。詩織さん寂しがってたぞ。そういえば、大学でもあんまし会わなかったな?」

「ああ、休んでたからな。それに、今日で、大学辞めて、実家に帰るんだ」

「は? なにそれ。なんの冗談?」

「冗談なんかじゃないよ。こんな所、もう居られない」


 南は肩を震わせる。


「おい、どうしたんだよ! 何があった?」


 小林は、慌てふためき、南の肩を揺さぶる。


「積み木遊び……」

「は? なんて?」

「積み木遊びの婆さん居たろ?」

「ああ、あれか。なんか、最後は、死んだ孫に会って、孫は成仏したって聞いたけど?」

「成仏なんかしてない。」


 南は、うつむきながら、ガタガタと震え出す。


「どういうことだよ?」


 小林が詰めよる。


「だから、成仏なんかしてなかったんだよ!!」


 南の大きな声に反応し、周囲の学生数人が2人のいる方を振り向く。


「ちょっと、落ち着けって」

「僕、あの後、出勤中にあの婆さんを、あの公園で見かけたんだ」


 南は絞り出すように声を出す。


 その声は震えていた。


「ベンチに座っててさ。挨拶ぐらいしようかなって思って、公園の外から声をかけたんだよ。でも、返事がなくてさ。心配になって近づいたんだ。そしたら、死んでた。しかもな、その婆さんの口には、んだよ」


 小林は絶句していた。


「僕さ、あの子の最後の言葉の意味をずっと考えてたんだ。あの子、『バイバイして?』って婆さんに言ってた。最初は、あの子がもう成仏するからお別れだよって意味だと思ってた。でもさ、『バイバイして?』って、親とかが、小さい子に向けて使う時の意味ってさ、『お友達とバイバイしようね?』って意味で使うんだよな。それで、思ったんだ。あのバイバイってさ……」


 婆さんが、んじゃないかって。

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