幸せの赤い糸
第21話 幸せの赤い糸 -胎動-
作者より
皆様、ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
本章をお読みいただく前に注意事項がございます。
このお話には、性暴力を想起させる描写がございます。もちろん直接的な表現はございません。(性描写ありのタグはこの章のためです)
ただし、そういった表現が苦手な方もいらっしゃると存じますので、注意書きをさせていただきました。
苦手な方は、この章を飛ばしていただいて結構です。
それでは、前置きが長くなりましたが、引き続きお楽しみください。
※
東京近郊 K市 西K駅構内
秋も徐々に深まり、葉が色づきだす十月の初め、早朝のホームに制服姿の女学生が二人並んで電車を待っていた。
朝特有の眠たい空気が充満しており、まだ街は眠っているようだった。
土曜日のため、ホームは閑散としていて、盲導鈴の間伸びした「ぴーんぽーん」というチャイムだけが響いている。
長かった残暑もだいぶ落ち着き、今朝は秋らしく、少し肌寒かった。
カイロ代りなのか、二人はホーム上のコーヒースタンドで購入したホットコーヒーを両手にもつ。二人の間にしばらく会話は無かった。
一人の少女が眠たそうに口を開く。
「来週から、中間テストだね」
もう一人の少女は何も答えず、じっとホットコーヒーの飲み口を見つめている。
「朝帰り、私初めてしちゃった。怒られるかな?」
「昨日の夜から、馬鹿みたいに着信入ってた。面倒だからもう、電源切っちゃった」
「うわぁ、絶対怒ってるよ。それ」
「だろうね。
心愛と呼ばれた女生徒は、肩掛けの学生鞄から携帯を取り出し確認する。
一瞬、なにかを期待するような顔色が浮かぶが、すぐに諦めの表情に変わる。
「うちには何の連絡も入ってないや。ママ、またアイツの家行ってるわ。でも、うちと違って、
心愛は自虐的に揶揄う。智沙は、そんな心愛に慣れているのか、特に動揺した様子もなく、ただ、黙っていた。
「中間テスト……」
智沙がつぶやく。
「え?」
「中間テスト、心愛は勉強してるの?」
心愛は、意外そうな顔をしながら答える。
「まぁ、ちょっとだけね。家で一人でいるとやる事ないしね。智沙は?」
「やってるよ。今回、範囲広いし」
「そっか」
それを境に再び沈黙が流れ、しばらく2人は無言でコーヒーを飲んでいた。
心愛がコーヒーを飲み干すと、智沙は空の紙コップを受け取り、コーヒースタンドに設置されたゴミ箱に捨てに行く。
戻ってきた智沙が、再び心愛の隣に立つと同時に、列車の進入を知らせるアナウンスが流れた。
「電車来たね」
心愛が声をかけるが、智沙はなにも答えない。
心愛は沈痛な面持ちになって、俯きながらつぶやく。
「ねぇ? 何でこんな世の中なのかな。これって、そんなおかしな事なの?」
「おかしくないよ」
黙っていた智沙が答える。その声には怒りと悲しみが混じっていた。
「もう、かえろう?」
そう言いながら、智沙は、一歩前に踏み出し、振り向いて右手を差し出す。
心愛はその手を取ると、小さく頷いた。
二人は手を繋いで点字ブロックの辺りまで進むと、そのまま、通過電車に飛び込んだ。
跳躍の瞬間に振り上げられた二人の繋がれた腕には、ミサンガだろうか、赤い紐のようなものが巻き付いていた。それが空中で一瞬交わり、八の字を描く。
まるで、一本の紐で二人の腕が結ばれているようだった。
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