第15話 積み木遊び -解 一の幕-

 携帯電話のアラームで目が覚める。

 

 薄めに目を開け、仰向けの状態のまま、左手でカーテンの端を掴み、少し捲る。


 鋭い陽光が寝室で乱反射し、思わず目を瞑る。


 しばらく目が慣れるのを待ち、目を開け、窓の外を確認すると、抜けるような青空だった。


 布団から体を起こし、ベッドサイドのカーテンを開ける。


 それから、ベッドに腰掛け、伸びをする。


 伸びをしたまま、左右に体を倒し、軽くストレッチをする。


 だんだんと目が覚めてきた。


 ベッドから立ち上がり、チェストに近づく。


 チェストから、下着を一組手にとり、寝室を出る。


 リビングルームは、薄暗く、まだ眠気が充満していた。


 カーテンを勢いよく引き、陽光を取り入れると、リビングに満ちていた眠気が一瞬で蒸発する。


 回れ右をして、洗面台へと向かう。


 電気をつけると、鏡に下着姿の自分が写る。手に持った下着を洗濯機の上に置き、鏡に写った自分の四肢と顔を確認する。足に多少むくみはあるが、許容範囲である。


 ナイトブラを外し、それを洗濯かごに入れる。


 顕になった鏡の中の胸を確認する。まず正面。それから、横向きからの形を確認する。

調子はまずまずだ。


 そのまま、洗顔をする。


 冷たい水を顔にかけると、完全に脳が覚醒した。


 洗顔後に歯を磨く。歯を磨きながら、昨日聞いた怪談のことを考える。今日は、水曜日であるため、積み木がある可能性は低いが、現場を確かめたい衝動にかられていた。


 昨日聞いたところによれば、その公園は、自宅から歩いていける距離にあるようだった。


 日課の朝の散歩のついでに見に行くことに決めた。


 歯を磨いたあと、軽く、化粧水と乳液をつける。


 ショーツも脱ぎ、新しい下着に着替える。


 洗面所を出て、キッチンへ向かい、カウンター上の電気ケトルの電源を入れる。


 お湯を沸かしている間に、寝室に向かい、クローゼットから、Tシャツとレギンスと短パンを取りだし、手早く着替える。


 寝室を出て、キッチンに戻るとすでにお湯は沸いていた。


 棚から茶葉を取り出し、紅茶を淹れる。


 マグカップに注いだ紅茶から、豊かな紅茶の甘い香りが立ち上る。口に含むと、爽やかな柑橘の香りが鼻に抜ける。


 マグカップを持ったまま、朝食の準備をする。


 オートミール、目玉焼き、トマトのジャムを入れたヨーグルトという至極簡単な朝食を済ましたのち、ジョギング用のシューズを履き、外に出た。


 すでに、太陽は高く登っており、蒸し暑い。


 歩き始めて五分で汗ばんできた。


 目的の公園は、K市の某史跡の北東の角にあるとのことだった。


 その史跡は、緑地化されており、休日には、家族連れやカップルなどがピクニックを楽しんでいたりする。


 自宅から近いこともあり、自分も何度か、散歩中に訪れた事があるため、道順は分かっていた。


 歩いて十五分ほどで史跡に着く。


 史跡の広く開けた芝生の広場には、平日の午前中ということもあり、人はおらず、ひっそりと静まり返っていた。


 広場を北東へと歩いていく。


 目的地の公園が見えてきた。


 公園は、史跡から、道路を一本挟んだ向こう側にあった。


 道路は車一台がぎりぎり通れるかといった道幅である。


 公園は、そこまで大きくなく、史跡側に面している正面の幅は五十メートル程だろうか、それに対して、奥行きは、二十メートルほどで、横に細長い形をしていた。そして、その周りを二メートル程の高さの金網のフェンスでぐるりと囲まれていた。


 正面の入り口から公園に入る。


 こちらにも、人はいなかった


 いくつかの遊具が設置されている。どれも年季が入っているようだ。


 そして、積み木が置かれるという、砂場は入って右側、南西の角にあった。


 砂場に近づく。


 何の変哲もない砂場であった。


 そして、積み木も無かった。


 南くんの話では、その積み木というのが、まあまあ値の張る、有名なブランドの物らしく、回収後に捨てるわけにもいかず、保育園で預かっているらしい。


 砂場のすぐ近くのフェンスにクリアファイルに入れられた貼り紙がくくりつけられていた。その張り紙には、積み木を預かっている旨と、保育園の連絡先が記載されていた。


 ふと、金網が目に入る。かなり新しく、こ

こ最近設置されたような印象を受ける。公園の遊具の年季の入りようとかなりギャップがあり、不思議に思う。


 ざっと辺りを見渡す。


 どうやら公園の入り口は、先程入ってきた史跡側の一か所のみのようだ。


 公園の北側と東側すわなち、入って左側と奥側は民家と隣接しており、そもそも出入は出来ない。入って右側は、道路に面しているが、そちら側は入り口はないようだ。


 右側の道路に面している金網に近づき、公園の外を見渡す。その道路も車一台がギリギリ通れるかといった感じの道幅だった。公園の正面の道路は、この右側の道路にぶつかり、公園の南西の角、ちょうど砂場のある角は、丁字路となっている。


 後ろを振り返り、砂場をもう一度見る。


 しゃがみ込んで、よく見てみるが、やはり、何の変哲もない、ただの砂場である。


 そろそろ帰ろうかと思い立ち上がった瞬間、左手斜め後ろ、つまり、丁字路の辺りから強烈な視線を感じた。


 思わず、そちらを振り返る。


 誰もいない。


 視線を感じた方向をじっと見る。


 すると--


 丁字路のすぐ近くに設置された電信柱、その脇にあるものを発見する。


 心拍数がわずかに上昇する。


 それは、花瓶に入れられた枯れた花であった。


 


 じめじめと蒸し暑い風に乗って、蝉の鳴き声が聞こえる。


 微かに、線香の香りがする気がした。

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