第12話 はっかく様 -解 大詰め-

「待ってください、玲子さん! はっかく様を知ってるんですか!?」

「ええ…。


 玲子さんの同級生?


 どういう事なの?


 ただの偶然とは思えない。


「玲子さん? 真琴ちゃんから、怪談の内容は何も聞いてないんですよね?」

「ええ……」

「では、今から手短に話します。その上で、はっかく様が玲子さんの知ってる人間なのかどうか、教えてください」


 私は、真琴ちゃんから聞いた怪談をかいつまんで話して聞かせた。


 25年前のM女子学苑にて--


 ある女の子が虐めれていた事。


 虐めていた子は首を切られて死んだ事。


 虐められていた子がその子を殺したという噂が立った事。


 ある日、その噂をその子が本当だと認めた事。


 そして、それは、はっかく様なる妖の力を借りた呪殺だと証言した事。


 今でもM女子学苑にははっかく様が巣食っており、呪いの儀式をする事で、相手に罰を与えられること。


 玲子さんは話が終わるまで黙って聞いていた。

「どうでしょう? この話に心当たりはありますか?」


 玲子さんは驚きを隠せないのか、震える声で答える。


「心当たりも何も、その怪談は、私が当時通っていたH高校で実際にあったことよ。いえ、"ほぼ"といった方がいいわね」


 なんて事だ。


 私は、この怪談は、はっかく様の存在を肉付けるために後から創作された話であると思い込み、それほど重要視していなかった。


 逆だったのだ。


 のだ。


 つまり、この一連の怪談と呪いの儀式の根源は、二十五年前のH高校に実際にあった事件なのだ。


 早々に玲子さんにこの怪談の話をしていれば…真琴ちゃんを危ない目に合わせなくて済んだかもしれない。


 後悔と自責の念が押し寄せる。


 玲子さんが続ける。


「実際の話はね、今聞いた怪談とは少し違うの。虐めていたのも、虐められていたのも男子生徒だった。虐めていた生徒は確かに首を失って亡くなったわ。でも、殺人とかじゃなく、ただの事故だったのよ。酔っ払いに電車のホームで突き飛ばされて、通過電車に頭をはねられたの。それから、怪談では、虐められていた子が自分から呪いだって発言したことになっているけれど、実際は逆。周りの子たちが呪いだって面白おかしく騒ぎ立てたのよ。その子の名前をもじって"はっかく様"の呪いだって」


 はっかく様は、人間の名前、あだ名だったのか。


「玲子さん。その人が真琴ちゃんを攫った犯人の可能性が高いです! 名前は覚えていますか?」


「ええ、珍しい名前だったし、そんな事があったからよく覚えてるわ。その子の名前は--」


 伊角いすみ 八彦やつひこ


「伊豆の"伊"に、三角形の"角"、漢数字の"八"に、猿田彦コーヒーの"彦"よ。名前に"八"と"角"と入っているから、八角なんて呼ばれてたのよ。」


 いすみ……


 どこかで聞き覚えが……


 違う、聞いたんじゃない、見たんだ。


 あの用務員か!


 さっき、社、もとい百葉箱の写真を見たときに感じた違和感の正体が分かった。


 あの用務員は、と言ったのだ。


 現代の学生ならともかく、二十五年前に高校生だった人間が、百葉箱の存在を知らないとは考えにくい。


 きっと、あれが社ではない知れれば、はっかく様の呪いが偽物である事がばれてしまうと思い、咄嗟に嘘をついたのだ。


「玲子さん。とりあえず、警察に連絡を。恐らく呪いの話を出しても最初は取り合ってもらえないでしょうが、なんとか説明して、伊角という用務員が怪しい事も伝えてください」

「わかったわ」

「そうだ、携帯のGPS機能で、真琴ちゃんの居場所が分かりませんか?」

「あの子、監視されてるみたいで嫌っていって、設定させてくれなかったのよ……。こんなことになるなんて……」


 玲子さんは、涙で声を震わせる。


 気丈な彼女が泣くところを初めて聞く。


 胸が張り裂けそうだった。


「落ち着いてください。私も、真琴ちゃんの行方を探しますから。何か分かればすぐに連絡します」

「お願い。あの子を見つけて……」

「分かりました。できうる限りのことをしますから。一旦切りますよ?」そう言って電話を切る。


 どうする? どうやって真琴ちゃんの居場所を見つける?


 彼が犯人だとして、どこで犯行に及ぶ?


 人目のつかない場所に違いないが、そんな所はこの町にはいくらでもある。


 しかし、人を連れて移動すれば、必ず人目につく。


 ならば、まだ学苑内のどこかか?


 いや、呪いを解くためにといって、人気のない神社などに誘い込む事だってできる。


 考えろ! 考えろ!


「あの、詩織さん。」


 近くで立ち尽くしていた小林くんが声をかけてくる。


 正直、いま、小林くんに状況を説明している暇はない。


 彼の問いかけを無視する。


「詩織さん」


 懲りずに声をかけてくる。


「今説明している暇ないの! 少し一人で考えさせて……おねがい」

「そうじゃないです。俺、真琴ちゃんの居場所、わかるかもしれません」


 今、なんて?


 分かるの?


 でも、どうして?


 いや、そんなことはどうでもいい。居場所さえ分かれば……。


「それ本当!? どこなの?」

「ちょっと待ってください」


 そう言って、彼はスマートフォンを操作する。


「ログインしたままでいてくれよ……。頼む……。あ! いた! いました!! ここです!」

「そう言って、スマートフォンの画面を見せてくる」


 これは……ゲームの画面……?


 そこには地図らしきものと、可愛らしい女の子のアバターが表示されていた。アバターの上には"mako0716"という文字が浮かんでいる。


 何が何だか、分からない。


「どういうこと……?」

「ああ、そうか。詩織さん、スマホゲームやらないんだった。これはですね、携帯の位置情報サービスを使用したゲームなんです。現実の街とゲームのマップがリンクしていて、実際の街を歩きながら、ゲームの世界を探索するという、拡張現実型のゲームな訳です。このゲームはフレンドの現在位置が分かる仕様で……まぁ、細かいことはともかく、このmako0716ってのが、真琴ちゃんの位置ってわけです」

「つまり、このゲームのマップは、現実の街と同じということね?」


 細かいことは分からないが、それさえ分かれば良い。


「 ここ、どこだろう?」


 ゲームの画面には、現実の世界にあるランドマークの名前は記載されていない。道の形から推理するしかない。


「ちょっと良いですか」


 小林くんがゲーム画面を確認する。


「ここが僕らの現在地……。ということは、これが駅だな。この道が、K街道だから……。それにしても、やけに、真琴ちゃんのいる区画、広いな、公園か? まてよ、このでかい通りが、あの道だとしたら、そうか……!分かりました! ここ、M女子学苑ですよ! ほら、この辺が僕が入ろうとした裏門!」


 そう言って小林くんは、携帯の画面を指差す。


 真琴ちゃんの位置は、その位置から、東に1百メートルほど……。


「ちょうど、小林くんが覗いたあたり?」

「そうですね……。あ」

 

 2人で顔を見合わせて同時に叫ぶ。


「用具入れ!」


 場所は分かった。

 

 玲子さんに連絡して、それから警察に……。


 しかし、玲子が警察に説明して、納得してもらって、動いてもらうのに後どのくらいの時間がかかるのだろう。

 

 こうしている間にも、犯人は真琴ちゃんに危害を加える可能性がある。


 どうしたら。


 その時、小林くんが叫んだ。


「何ぼさっとしてんすか! 助けに行きますよ!!」


 頬を平手打ちされたような衝撃が走る。

 反射的に「よし、行こう」と返事をしていた。


 店から飛び出し、タクシーを捕まえるために、駅へと駆け出した。


 首の痛みを感じて、目を覚ます。


 目を開けると、あたりは薄暗く、よく見えないが、どこかの部屋のようだった。


 天井に取り付けられた電球が弱々しく光っている。この部屋を照らすものは、それしかなかった。


 腕時計で時間を確認しようと、左腕を動かそうとした。


 しかし、動かない。


 なんで?


 なんで動かないの?


 状況が理解できずパニックになりかける。


 力いっぱい腕を動かそうとすると、両手首に鈍い痛みが走った。


「動かせないよ」


 後ろから突然声がした。


 あまりの衝撃に、反射的に叫ぶと同時に、立ち上がった。


 しかし、うまく背筋を伸ばせない。


 足も動かせず、私はそのまま前のめりに倒れ込んだ。


 咄嗟に手をつこうとするも、やはり手は動かず、私は顔面から、地面に激突した。


 鈍く、激しい痛みが走る。


 どうやら、口を切ったようで血の味がした。


「あーあ。ダメだよ。怪我しちゃうよ」


 また、後ろから声がする。


 冷水を浴びせかけられたように、心臓が縮み上がり、また叫ぶ。


「いやぁああああ!!!」


 それと同時に、なんとか立ち上がろうと、四肢を力任せに動かすがどうにも動かない。


「だから、動けないって。縛ってるんだから」


 男が近づいてくる気配がする。


 もう、完全にパニックになって、訳もわからず叫びながら、もがく。


「やめてぇええええ!!! いやぁああああ!!!」


 その時、体がぐっと、持ち上げられて、引き起こされる。


 そこで、ようやく理解する。


 私は椅子に縛り付けられていた。


 でも、その理由がわからない。


「何これ……どうなってるの……。なんで私……」


 状況が理解できると、重たく、冷たい恐怖がゆっくりと、押し寄せてくる。


 まずは、足元から、そして、腰へ、背中を通って、首筋まで……。


 まるで水責めをされるかのように、徐々に恐怖という真っ黒い液体で、体中を締め付けられ、それが喉まできた時、もう、声すら出せないと思った。


 指先も、靴の中の足先すら、動かせば良くない事が起こる気がして、どこも、全く動かせない。


 先ほどの声の主が、すぐ後ろにいる。


 その主が、私の前に回ってくる。


 このままでは、見てしまう。


 嫌だ!


 そう思った途端、体を動かせるようになり、目をぎゅっとつむる。


 声がする。


「目を開けろ」


 私は、必死で首を横に振る。


「目を開けて、私を見ろ!!」


 大きな声に驚き、咄嗟に目を開けてしまう。


 すると--


 私の顔から5cmと離れていない距離から、男がじっと私を覗き込んでいた。


「ひっ」と息をのむと、喉の奥が張り付いて、それ以上、声が出せなくなる。


 男は、笑みを浮かべると、中腰の姿勢から、立ち上がって私を見下ろした。


 その顔は、意外にも、見知った顔だった。


 そう。いつも学苑を掃除してくれている、用務員さんだった。


 そして、はっかく様の呪いを解く方法を知っている、依里を助けてくれるはずの人だった。


 見知った人だと知って、少し恐怖が和らぐ。


「どうして用務員さんが……?」

「どうして?」

「はっかく様の呪いを解く方法を教えてくれるって言ったじゃないですか。これって、その儀式かなんかなんですか?」


 用務員さんは、可笑しくてたまらないといったふうに、喉の奥で、声を出さずに笑う。


「違う。違うんだよ。はっかく様の呪いなんてものは、最初から無いんだよ」


 訳がわからなかった。


 じゃあ、なんで依里は……。


「で、でも、私の友達は、はっかく様に襲われて、それで……」

「それは、私だよ。私が、彼女の髪を後ろから切ったんだよ」


 思考が停止する。


 男は後ろを向くと、何やら手に取る。


 そしてゆっくりと、こちらを振り返る。


 右手には、長い髪の毛の束が握られていた。


 それを、この男は、顔に近づけると、まるで顔でも洗うかのように、匂いを嗅いだ。


 なに、それ?


 依里の髪なの?


 嫌、嫌、イヤ、イヤ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤ、いやぁああああああ!!!!


「はっかく様の呪いの噂を流したのは私だよ。もちろん、呪いを解けるなんて噂も私が流した。呪いを恐れて、女の子たちが、助けを求めてくるんだ。最初はそれだけで気持ち良くなれた。でも、だんだん、それじゃ我慢できなくなってね。私は長い髪の毛が好きなんだ。だからある時、髪の長かった子に、呪いを解くからと言って目を閉じさせ、その隙に彼女のカバンから櫛を盗んだんだ」


 男は、いつの間にか、握られていたヘアブラシで、手に持った長い髪を梳かし始めた。


「流石にやりすぎだと思ったよ。バレればクビになるとね。でもね。その子は次の日に僕のところにやってきて、こう言うんだ……」


 "呪いを解いてくれたんじゃないんですか?買ったばかりのヘアブラシが無くなったんですけど"


「はっかく様の呪いだと思い込んでたんだよ。それから、私は色んなことをしたよ。髪留めを盗んだり、儀式と称して、少しだけ髪の毛を切ったり……。中には髪の短い子もいたがね。そんな子には興味がなかったから、適当なおまじないを教えてあげたよ」


 男は、髪を梳かすのをやめ、大事そうに机の上に置いた。


「でもね、もう、数センチの髪の毛じゃ我慢できなくなったんだよ。だから、君と同じような綺麗な長い髪の女の子が訪ねてきた時、この子の髪を丸ごといただこうと思ったんだ。だから、呪いを解くためには、神社でおまじないを唱える必要があるって教えて、人気のない神社に誘い出してね、必死におまじないを唱えている彼女の後ろ髪をね、剪定用の大きな鋏で、切ったんだよ。でもね、もう、今は、それでも足りないんだよ」


 依里は、こいつに。この男に髪を切られて、恐ろしい目に合わされて、あんなに泣いて…!


 この時、怒りが恐怖を圧倒した。


「あんたのせいで依里は!!! 絶対に許さない!! 警察に通報してやるから!!」


 男は、今までニヤニヤ笑っていたが、急

 に無表情になり、冷たい目で見つめてくる。


 そして--


「無理だよ」


 なんの感情もこもってない、無機質な声。


「え?」

「警察に通報するの。無理だよ」


 この男は何を言って……。


「なんで顔見せたと思ってるの。殺すからに決まってるじゃないか」


 いつのまにか、男の手には、柄のついた両手持ちの巨大な鋏が握られていた。


 私は、恐怖のあまりの失禁した。


 タクシーを飛び降り、M女子学苑の裏門の前に立つ。


 すでに、門は閉められていた。


 タクシーの中で、玲子さんに電話し、真琴ちゃんの居場所は伝えた。玲子さんから警察にも伝えてもらえる手筈になっている。


 うまく状況を理解してくれれば、警察がここに間も無くやってくるだろう。


 しかし、警察の到着など待っている時間はないような気がする。


 小林くんに、「行くよ」と声をかけて、門に手をかける。


 開かない。


 すると小林くんは、その門をよじのぼり、中へと侵入した。


 私も、門に手をかけ、よじのぼる。小林くんに引き上げてもらいながらなんとか中に入れた。


 2人で、雑木林を走る。幸運なことに、学苑内の電灯のお陰で、手元に明かりがなくても、なんとか視界は確保できた。


 息が続かなくなくなってきたあたりで、前方に用具入れのような大きめの物置小屋が見えてきた。


 物置小屋に駆け寄り、左手側に回る。


 そこには、小屋の入り口と思われる引き戸があった。


 その時、中でガタンと大きな音がした。


 もはや、一刻の猶予もない。


 私は、鍵がかかっていないことを祈りながら、物置小屋の引き戸を勢いよく引いた。


 物置小屋の引き戸は、意外なほど軽く、猛烈な勢いで開き、レールの終点と戸が衝突する大きな音が雑木林にこだました。


 その音に驚いたのか、小屋の中の人影は硬直していた。


 そこには、2人いた。


 1人は、倒された椅子に座ったような状態て床に転がっていた。


 もう1人は、それに覆いかぶさるようにして、剪定用と思われる大きな鋏を両手で持ち、今まさに振り下ろさんとしているところだった。


 あまりに非現実的な光景に体が固まる。


 その瞬間、私の右隣で何かが動いた。それは、猛烈な勢いで中に突進していき、そして、鋏を持った人間の脇腹に蹴りを入れた。


 鈍い音がした後、蹴られた人間は横方向に吹っ飛び、バケツか何かをひっくり返すような大きな音がした。


 その後、獣のような咆哮と物と物がぶつりあうような、けたたましい音がしたかとおもうと、急に静寂が訪れ、荒い息づかいだけが小屋に響いた。


 静寂を破ったのは、小林くんの声だった。


「詩織さん! 取り押さえました!」


 私は急いで小屋に入り、すぐに、倒れている人影に近づく。


 紛れもなく、真琴ちゃんだった。


 両目は恐怖に見開かれ、涙を流して、震えていたが、しかし、生きている!


 心の底から安堵した。


 すぐにでも抱きしめたかったが、目を見て頷き、もう大丈夫だと伝える。


 周囲を見渡すと、床に、荷造り用のビニル紐が落ちていた。


 それを手に取り、小林くんに近づく。


 あの用務員が、小林くんに組み伏され、諦めたのか、ぐったりしていた。


 小林くんに締め上げられている両手を縛る。小林くんが手を差し出してきたので、ビニル紐の玉を手渡す。彼は、縛られた男の手から伸びるビニル紐を力任せに千切ると、今度は手際良く男の足を縛り始めた。


 その様子を見て、一安心だと判断した私は、真琴ちゃんに近づき、彼女の拘束を解いていく。


 彼女は自由になると、私にしがみついてきた。想像を絶する恐怖だったのだろう。ガタガタと震えている。


 私は彼女を強く抱きしめながら、もう大丈夫だからと声を絞り出した。


 私も、泣いていた。


 とにかく、彼女をここから出した方が良いと判断し、まだ立てそうにない彼女を小林くんと2人で小屋から連れ出し、裏門に向かって歩き出す。


 裏門にはすでに1台のパトカーが到着しており、2人の警官がまさにいま、校門を開け、校内に入ろうとしているところだった。


 警官は私たちを発見すると、駆け寄ってきて、「白石真琴さんですか?」と聞いてきた。


 答えられない彼女に代わって、私がそうだと答えると、警官は、肩についた無線をつかう。


「対象を保護。負傷しているようなので、救急車お願いします」


 ややあって、「了解」と返信がきた。


 救急車の到着とほぼ同時に、玲子さんもタクシーで到着した。


 真琴ちゃんと玲子さんは、救急車に乗ると、病院へと搬送された。


 警官に事情を聞かれたので、小屋の中に犯人を拘束していることを伝える。


 その後、もう一台、応援のパトカーが到着し、初めから居た方の警官二人は、物置小屋へと駆けていった。


 その間、私たちは、応援に駆けつけた、警官たちに、詳しい状況を説明した。


 警官が突入してから、五、六分が経過した頃だろうか、小屋へと犯人を逮捕しに向かったはずの警官が2人だけで戻ってきた。


「ちょっと、一緒に来てもらっても良いです?」


 わけが分からず、小林くんと2人で、警官について行く。


 例の小屋が見えてきた。


 すごく嫌な予感がする。


「ちょっと、小屋の中を確認していただきたいのですが、女の子が監禁されていたというのは、この小屋で間違い無いですか?」


 間違いないですと、言いながら中を覗く。


 そこには、


「そんな……。ここに、確かにいたのに。縛っていたのに……」


 そして、あることに気がつく。


「鋏がない……」

「なんですって?」


 警官の声色が変わる。


「真琴ちゃんを、彼女を襲っていたときに持っていた、剪定用の大きな鋏がないんです」


 それを聞いた警官は、すぐに無線に連絡を入れる。


「えー、マルガイが逃走した模様。なお、犯行に使用した大きな鋏状の刃物を持って逃走していると思われる。繰り返す。マルガイが逃走。大きな鋏状の刃物を持っている模様」


 雑木林がざわざわと泣く。


 その、うるさい葉擦れ音に混じって、微かに、しかし確かに--


 -りん-


 鈴の音が聞こえた。


はっかく様 -了-

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