第一部 怪談殺し

プロローグ

第1話 プロローグ

 東京郊外K市。


 駅前はそれなりに発展しており、都心へのアクセスも良好であるが、まだまだ緑地や小さいながら農地などもあり、駅から少し離れれば閑静な土地が広がる、そんなある町に一軒のBARがある。屋号を「夜行」という。


 屋号も変わっているが、この店の主人は、輪をかけて変わっている。夜な夜な怪談を蒐集しているのだ。

 

 この世には怪談師なる職業もあるくらいで、プロ、アマチュア含めれば怪談蒐集家などというものは相当数おり、別に珍しくもないと思われるが、この店の主人である城ヶ崎詩織は、ただ怪談を蒐集しているわけではない。

 

 彼女の興味は、怪談それ自体にはなく、人が恐怖する仕組みにある。怪談とは口伝にて実しやかに囁かれる伝承の類であり、ある種、伝染病のように静かに蔓延していく。彼女は、怪談という伝染病を研究し、恐怖の根源を明らかにする事に無情の悦びを覚えるのだ。


 これは、怪談蒐集家の城ヶ崎詩織の怪談研究を短編としてまとめたものである。

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