薄汚い世界でキレイゴトを謳う
宵町いつか
第1話
2月4日 某県立高校 前期試験
横に3人並んでいる面接官役の教師がじっと俺のことを見つめる。
それに気づかないふりをしながら教室の外に立つ。
「失礼しました」
俺はマスク越しでも聞こえるようにできる限りはきはきと相手が聞き取りやすいように挨拶をした。
中学と同じような木で出来た机に置いてある自分のカバンを持ち、近くにいた教員に軽く会釈をして玄関に向かう。
やけに綺麗な下駄箱を開け、自分の薄汚れた靴を取り出し校舎を出る。
肌に突き刺さるような寒さの中、俺と同じく受験が終わったであろう中学生たちが数人、校門に向かって足をすすめていた。
俺もその流れに混ざり、思いに浸る。
俺はこの高校に入りたいのだろうか。
俺が今回受験した高校は主に農業のことを学ぶ高校で、就職と部活に重きを置いているところで進学者は全体の3割程度だそうだ。
この高校では農業科と造園科、食品科学科、製菓科に分かれている。
そして俺は農業科を受けた。
Q,あなたはこの高校に入ってどのようなことをしたいですか?
Q,あなたが中学校生活で勉強と部活以外で頑張ったことはありますか?
Q,卒業後の進路はどのように考えていますか?
何もしたくない
特にない
将来なんて知らない
本当はそう答えたかった。
本当のことをありのまま。
受かるとか落ちるとかどうでも良くて。
ただ、吐き出したかった。
だけど、俺の本心とは正反対の堪えを口にした。
薄っぺらい言葉だ。
心の奥ではそんなこと思ってないくせに。
でも、思っていることを言ってしまったらきっと……いや、必ず周りからひとが消えていくだろう。
受験の面接は人間関係と同じだ。
本心を隠して行動しなければいけない。
なあ
だれかこんなにも汚い世界から俺を救ってくれ。
汚い世界で綺麗事を謳う汚い俺を助けてくれ。
息が詰まりそうだ。
だれか本当のことを言わせてくれ。
数分でも嘘をつきたくないんだ。
もう、疲れたんだよ。
自分って何なんだ。
俺って何なんだよ。
薄汚い世界でキレイゴトを謳う 宵町いつか @itsuka6012
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