最終話

最終話


各地の守師から、ぼた餅を頂き、小次郎はここでやっとの思いでお札に変わった。お札の呪いが解け、体内から煙が出てきて、元の小さなお札が還ってきた。


元に戻ったそのお札を、北条さんに言われた通り、折らずに大事に胸にしまうと、元の祠に戻しに帰る小次郎。


国道20号をひたすら走った。途中で休憩している時も、胸にしまったお札を気に掛けている。


東京都に入った所で一晩野宿をし、更に20号を走る。


都心を抜け、休憩を取りながら更に走る。


途中別の道をマップを確認しながら走って行く。


やがて国道6号に出て、更にひた走る。


休憩は毎回コンビニだった。十分腹ごしらえをして、また走る。


途中の千葉と茨城の県境の利根川で、一夜を明かした。


日の出と共に目覚めると、歯磨きし、顔を洗って出発した。


(やっと戻ってきた。地元まであと少しだ。明日昼までには着きたい。)


小次郎は今までで1番の気合の入れようで、思い切り自転車を漕いだ。


水戸市の先の途中のコンビニで一晩を過ごした。駐車場スペースが広いコンビニが多くて助かっている。


翌日……。


また走る、無心で走った。


そして、ようやく地元まで帰って来た。もうちょうど昼になっていた。


そして、あの祠まで帰って来た。……祠守の高齢の女性が側に腰掛けていた。下川さんだった。


小次郎は自転車を投げる様に停めると、側に駆け寄りひざまづいた。


「し、下川さん。妹さんにはお会いしました。元気だと伝えてくれとおっしゃっていました。」


「久しぶりじゃの。いつ戻るかと待っておったよ。妹に会ったのかい。……そうか諏訪湖まで行ったんだね。……それでどうだったね、お札は元に戻ったのかい?」


「はい。数カ所を回って、数人の守師の方々からぼた餅を頂きました。そして、8個頂いた所でようやく、この通りお札が元に戻ったんです。」


「それは良かった。わしも待った甲斐があったな。」

 

 小次郎は、胸にしまっていたお札を丁寧に取り出すと、下川さんにお返しした。


 「さて、これは元の祠の中へ納めよう。して、おぬし、方々ほうぼうでぼた餅を頂いて何を感じたね?」


 小次郎はフラッシュバックで見た事を話すべきか迷ったが、結局話さなかった。


 「頂いたぼた餅は、どれも守師の方々の心のこもった物でした。食べて心が洗われる様な、不思議な気持ちでした。」


 「うむ、今一度聞こう。おぬしは、あの時ぼた餅を盗み食べた事、本当にいているな?」

「はい、幼いながらにも守師の方の心を、下川さんの思いを踏みにじる事をしたと痛切に感じております。」


 「そうか。ならば……」


 この祠守の下川さんは、既にお供えしてあるぼた餅を手元に取り出した。

 

 「今度のぼた餅は盗み食べるのではない。ここの氏神様から、そしてお札の御礼おれいとしての1つじゃ。わしの手から渡す事でそれは許される。さぁ、召し上がれ。」


 「あ、ありがとうございます。頂きます。」

 

 一口一口、ゆっくりと味を噛み締め食べた。


 「下川さんのぼた餅、とても美味しいです。」


そしてぼた餅を食べ終えると……。


(な、なんだろう。周りが白く見えてきた……。僕はこのまま死ぬ?あぁ、ダメだ。力が抜けてきた……もう何も見えない。)


そのまま気絶してしまった……。


――――――――――――――――――――――――――――


小次郎は、薄っすらと意識が戻ってきた。

やがてしっかり目が覚め、視界がはっきりした。


そこには祠守の下川さんの姿は無かった。


小次郎は学校帰りに立ち寄った、昔の祠の前に立っている。


小学校の頃の下校途中だった。


 「おーい南沢―。何してんだよー!先に帰るからなー。」

 同級生の下山君が大声で呼んでいた。


 「ごめーん。今行くよー下山くーん!」

小次郎は同じ様に大声で返事をして下山君と帰路に付いた。


終わり

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ぼた餅の祠守(ほこらもり) ほしのみらい @hoshinomirai518

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