第二十八話〜第三十話
第二十八話
メモの住所から、マップを確認する。
(ここからだと、とにかく甲府市に向かって、甲斐善光寺だな。松浦さんは前もって連絡してから伺う様にと言っていた。ここからだとどの位時間が必要だろう。)
連絡を入れる前に、到着予定をマップで確認する。
(5時間位は掛かるな。ぼた餅を用意して頂く事を考えると、明日、待ち合わせる方が失礼が無さそうだ。)
小次郎は先ず
北条さんには電話で直ぐ繋がった。
お札の呪いの事や、各地の守師からぼた餅を頂いた事を話し、北条さんのお供え前のぼた餅を頂くよう申し入れると、快く承知してくれた。
北条さんは、本殿と墓地の間に有る祠に来る様にと言ったので、諏訪湖から自転車で向かう事を告げると、明日朝9時に待ち合わせる事になった。
(良かった。少しは時間に余裕が出来た。急がず向かっていこう。えーと、夜明かしのコンビニは……。)
国道20号を南下して、韮崎市に有る一晩過ごすコンビニを目的地に出発した。
(松浦さんの話では、力のある守師だと言っていた。でも、途中で祠を見付けたら寄ってみるつもりでいよう。)
トラックも多く行き交う国道で、のんびりと走っているわけにもいかず、結局走る事に集中した。
途中で昼食休憩。マップを確認してまた走り始めた。
中央東線に沿ってしばらく走った。
富士見駅を過ぎた辺りからは鉄道から離れて走る。
小淵沢を過ぎ、北杜市に入る頃には陽が暮れた。
そこからはもうすぐ目的のコンビニ。
少しペースを遅めにのんびり走る。
暗くなっても、車の通りは多かった。さすが山間の重要幹線道路と言える。街灯も多く、自転車で走るには楽だった。
韮崎市に入る。目的地にしていたコンビニまであと少し。
一旦休憩とした。
水分補給を済ませて、また走り始めた。
程なくして、国道沿いの目的地のコンビニに着いた。
今日の夕飯と明日の食料確保、数本のスポーツドリンクを調達して、駐車場の隅っこの目立たない所で遅い夕食にした。
コンビニの横に水道を見付け、水筒に水を拝借、自転車の横で明日のルートをチェックした。
夜9時を回った頃、駐車場の街灯が消え、コンビニの大きな看板だけが明るく目立つ様になった。
車の量が少なくなって、静かになる。小次郎は下半身だけ寝袋に入っていたが、いつのまにか寝てしまった様だ。
翌日早朝……。
アラームで目が覚めた。少し早いが、朝食を済ませて、排水溝で歯磨きと顔を洗い、身支度を整えた。
(さて、ここから9時までに約束の祠の前まで行かなきゃ。予定ではここから1時間ちょっと。場所の確認をしに向かうか。)
迷わず甲斐善光寺に足を向けた。
第二十九話
のんびりとマップを確認しながら走って、1時間半位。午前7時30分を回った。
向かう先に甲斐善光寺が見えてきた。
本殿と墓地の間に有る小道に着く。
自転車を降りて、押しながら祠を探した。
ちょうど本殿の真裏辺りに祠が有った。
今まで見てきた祠より少し大きめの祠だった。
格子の観音扉がしっかりしていて、使っている金物も立派だ。
中にはちゃんとお札が有って、お供物も確認出来た。
(動き回らないで北条さんを待つか。)
小次郎は自転車からスマホを外し、充電しながらマップを確認した。
(もう1人の守師はここから近い神社なんだ。武田神社……か。鳥居守と書いてある。このどちらかから頂くぼた餅でお札が戻るだろうか?それともまた別の守師を紹介してもらう事になるのだろうか……。でも、松浦さんは力のある守師だと話していた。電話で事情を話してからってのは、それなりに準備してぼた餅を用意してもらえるのかな?何か、
祠の横に自転車を停め、座り込んで考え事。
通りかかる人は、皆、小次郎をチラ見して過ぎて行く。
午前8時過ぎ。
膝を抱え俯いている小次郎に近寄る人が居た。
気が付いて顔を上げる。
「南沢……さん、かしら?私は高塚と申します。武田神社の鳥居守をしています。」
「あ、諏訪湖の松浦さんから聞いています。どうしてここに?」
「この祠守の北条さんから昨日電話がありました。南沢さんと言う方が、お供え前のぼた餅を希望されていると。それでぼた餅をお持ちしました。ちょうどこれから鳥居にお供えに行くところです。その前にここに寄る様にと話されましてね。」
「北条さんから……。」
呆気に取られ、驚きの表情の小次郎。
「どうぞ、召し上がってください。私は鳥居守。ぼた餅の効果は薄いかと感じ、今朝早く神社に寄って、宮司さんに願掛けをお願いしたんです。」
差し出されたぼた餅を手に取ると、無心で食べ始めた。
「北条さんも9時前には来ると言っていましたから、まもなく来るでしょう。」
食べ終わった小次郎に、フラッシュバックが起こる。
実家の様だった。見えるのは仏壇?……写真が……有る。!!自分の写真が飾られ、お供え物に囲まれていた。
……母がうずくまって泣いている。
隣の父が見えたところで、また全体が白くなり元に戻った。
無意識に涙が溢れてくる。それを見て高塚さんは、
「何か見えたんですね?でも、お札は
「ありがとうございます。高塚さんで7個目のぼた餅でした。北条さんからは8個目になります。」
2人が話しているところへ、北条さんが来てくれた。
会釈をする高塚さん。小次郎は慌てて、
「南沢です。本日はわざわざありがとうございます。」
「北条さん。今しがた、私のぼた餅を召し上がって頂きましたが、効果は無かった様です。」
「この祠守の北条です。そうですか。高塚さんのぼた餅でダメでしたか。……では、南沢さん。祠の前に正座してください。」
小次郎は言われた通り、祠の前に正座した。
第三十話
正座した小次郎に、北条さんがお供えの皿を差し出した。
「さ、南沢さん。ぼた餅をお取りください。私からのお願いも
北条さんは、お供物の皿を祠に収め、小次郎の後ろに立って背中をさすり始めた。
「ゆっくりで構いません。味を確かめる様に食べ切ってくださいね。」
小次郎は一口一口、ゆっくりと食べた。
最後の一口を口にすると、また映像が見えた。
松浦さんのお姉さんの姿。
あの祠の横で佇んでいるのが分かる。やっぱり待っているんだ。
すると直ぐに映像が見えなくなった。
ただ、目の前が白く光ったまま戻らない。
今までと違っていた。気が遠くなるのが分かった。
側に立つ高塚さんは手を合わせて見届けている。
小次郎の背中をさすっていた北条さんが手を止めた。
「良かった。お札が還ってきた。」
「北条さん、良かったですね。」
北条さんが小次郎に声を掛けた。
「南沢さん!気を確かに!大丈夫ですか?」
北条さんの声に気が付いて、意識が戻った小次郎。
「あっ。お、お札が……。これは僕の身体から戻ってきたのでしょうか?」
「その通りです。さぁ、元の祠へ。お札を折らずにお持ちになってください。もうあなたに呪いは有りません、ご心配なく。」
小次郎は正座のまま向き直り、北条さんと高塚さんに深く頭を下げた。
「元の祠にお返しするまで肌身離さず帰路につきます。本当にありがとうございました。」
「さぁ、南沢さん。顔を上げて立ち上がって。帰り道で事故に
北条さんに腕を抱えてもらい立ち上がる小次郎。
肩を叩いて励ましてくれた。
「北条さん、南沢さん。私はお供えに向かいます。ではお元気で。」
そう言って高塚さんは去っていった。
北条さんは、祠の扉を閉じると、小次郎に言った。
「今までにぼた餅を召し上がって幾つか見えたと思います。それはお札が見せたもの。あなたに伝える為に見せたのだと思いますよ。では私はこれで失礼します。」
北条さんも去っていった。
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