セントレア

澪凪

ピアニッシモ

私は17か18の時からたばこを吸っていた


イキリというのもあるけれど、リストカットするよりはマシだった


寮を追い出され、強制的に始まった一人暮らしはとても大変で


お酒やたばこに手を出さないと、自傷行為がやめられなかった


当時の彼は、父親が喫煙者のため、何も言わなかった


思うことがあったのだろう


換気扇の下でたばこを吸う私を抱きしめて


「守ってあげられなくてごめん、なぎさ、たばこやめろとは言わない、でも俺はなぎさのこと好きだから」


私は、一粒の涙を流し、たばこを水につけた


抱きしめ返して、


「ごめんなさい、しょうへいさん。たばこ、やめてみる。でもお酒は許して。」


私は、たばこを箱ごと水につけて捨てた


しょうへいは、2個上だが、実家暮らしだったため、ほとんど半同棲のような形で私の部屋にいた


ゆらゆらとした未確定な関係が嫌で、私はしょうへいに八つ当たりをした


「彼女なのに先が見えないから怖い!!お願い…捨てないで…しょうへいに捨てられたら私、また親に殺される!!」


泣きながらしょうへいに言った


「分かった。今日はもう夜遅いし、なぎさは明日学校だろう?寝るまで起きてるから、眠剤飲んで寝よう」


そう言って、私に水と薬を渡して飲ませ、背中をぽんぽんしてくれた


朝起きて、私は通信制の高校に行った


どうしても行かなきゃいけないことがあったのだ


「なぎさ、何時帰り?」


「んー、先生との面談あるから、読めないけど、午後かな」


「分かった」


きっと、迎えに来てくれるんだろうなと思い


嬉しく思った


しかし、迎えには来なかった


「え、今どこ?」


「なぎさの部屋にいる〜」


捨てられたとばかり思い、不安だった私は、


部屋にいることが分かり安心した


電車で1駅乗り、そこから徒歩で20分


早く会いたいと、早走りで帰宅した


玄関を開けると、良い香りがし


しょうへいが笑顔で迎えてくれた


「おかえり〜なぎさ〜!よく頑張ったね〜」


抱きしめられながら、褒めてもらった


玄関先で私達はキスをした


「しょうへいさん、ご飯作ってくれたの??」


ご飯を作るのは私の係だったため、驚いた


「いや、まあね。それより、早く部屋に来てよ!」


彼に促され、部屋に入ると


机の上には、ピンクの紙が置いてあった


「婚姻…届…」


「なぎさ、昨日泣きながら先が見えないから怖いって言ってたじゃん?それに、なぎさを親御さんのところに戻したらなぎさほんとに死んじゃうじゃん。ねえなぎさ、結婚しよう?」


目の前にある婚姻届には、署名・捺印がしてあり、あとは私が書くだけだった


「しょうへいさん…本気…?私まだ18だよ?未成年だから結婚できな…」


「未成年専用の同意書、住民票関係、戸籍関係の書類は全部持ってきた。親御さんのところにだっていつでも行ける。うちの親にはもう話は通した。」


「うちの家庭事情や私の環境、全部親御さん知ってるの…?」


「それも話した。仮にそれがネックになったら俺は親を捨てる覚悟でいた。でもうちの親は、「なぎさちゃんが頑張った証で、今があるのだからしょうへいが守ってあげなさい」って言ってた。」


ぽろぽろ落ちる涙を堰を切ったように流れ落ち、顔はぐしゃぐしゃになった


「しょうへいさん、こんな不束者の私ですが、どうぞよろしくお願い致します。」


正座をして、お辞儀をした


その日の夜ご飯はとても美味しくて、焦げているじゃがいもも甘く感じられるくらいだった


19になり、私は本格的に進路を決めることになった


地元には私の志望学部は無く、彼とは遠距離恋愛になることが分かっていた


「遠距離は無理」


彼は、私が17の時からそう言っていた


でも志望学部を諦めることはできなかった


「しょうくん、私やっぱり県外に出るよ」


「そこまで意思が固いなら良いよ」


その日を境に私達はすれ違っていった


無事、県外の大学に合格し、とりあえず実家に戻ることになった私に彼は


「おめでとう、なぎさ。距離が遠くなって会えなくなっても、頑張りたいって思ってる」


その言葉だけで、泣きそうだった


引越しの日、彼は空港まで来てくれた


「なぎさ、今までありがとう。俺、やっぱりなぎさのためを思ったら別れた方がいいと思う。」


そんな悲しい顔で言わないでよ


悲しいのはこっちの方なのに


「分かった!今までありがとう。今日もお見送りに来てくれてうれしい!別れてもお互い幸せになろうね!」


私は笑顔で彼と別れた


セントレアに着いた


セントレアを離れる頃には涙は枯れていた


引越しはとても忙しく、両親も居るため、ストレスがとても酷いものだった


引越し作業が終わり、両親が地元に戻るのを見送った後、私は近くのセブンイレブンに走った


「ピアニッシモ、1mg」


年齢確認はされなかった


部屋に戻り、1人だけの空間で久しぶりにたばこを吸った


肺に入れた瞬間咳き込み、涙が出た


「しょうくん、たばこやめれなかった」


私のつぶやきは彼に届くことはなく


私は今日も1人、たばこを吸う


2人の幸せだった証の婚姻届は


今もまだ、クローゼットの奥に


あなたの残していったものだらけで生活している私


いつか、捨てられますように


お互い幸せになれますように


蟹座に願いを込めて


好きでした


しょうくん

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セントレア 澪凪 @rena-0410

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