第6話 泡沫
「――っ!!!」
顔をあげた僕は、思いっきりむせ返った。水が肺にも入った気がする。…ダジャレではない。
「大丈夫?」
ナオちゃんの黒い瞳が心配そうにこちらを見つめる。
「もう…。またお風呂の前に深酒したん?
危ないから止めときって、いつも言ってんのに」
心配そうな彼女の声を聴きながら、僕はゆっくり思い出した。
そうだ、ハルは死んだんだ。
何か勝手に悩みを抱えて、何も言わずに自殺した。…せめて、僕らに何か言ってくれれば、よかったのに。もしも助けにならないとしても、助けを求めて欲しかった。
「ハルの夢を見た」
浴室から出かけたナオちゃんは、僕の言葉にピタッと立ち止まる。
「…『もう気にすんな』って言ってた。ナオちゃんにも『ごめん』って」
少しの沈黙のあと、短く息を吐いた。彼女の後ろ姿は小さく震えてるみたいにも見えた。
「…別府温泉に行く夢やったんやけど…」
「は?」
彼女はぐりんと振り向いて、僕のことをギロッと睨む。でも、彼女の口元はなぜか笑っていた。
「…ふぅーん。あたしと新婚旅行で行く予定の別府に、ひと足先にアヒルと行ってきたんやぁ…。ふぅーん…。あぁ!もしかして、お泊りもしたん?」
「…あ、いや、
その…ハルとはバイク旅やったし、平尾台にも行ってないし!一緒に泊まったけど、
あ!…いや、その!ハルもナオちゃんに『ごめんな』って言ってた!」
「言い残すことはそれだけかっ!」
にっこり笑った彼女の回し蹴りが僕の頬にクリティカルヒットした。再び湯船に沈みながら、僕は旅の予定を考える。
次にハルに会うときまでに、楽しいことをいっぱいしよう。彼に話を聞かせるために。もう彼の夢は見ないのだから。
夢を見るならハル以外 おくとりょう @n8osoeuta
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