43.最終話

 これはジョンのツテだった。


「俺にとっては恩師も同じなんだぜ」


「俺には店もあるんだがな。早くしてくれよ。ああ、今日の収入は期待できないな」


「いいじゃないか。俺が払うよ」


「お店って何しているんですか?」

「じょうちゃん。たしか俺にお店に来たことあっただろう。

 武器屋をやっているんだ」


「あ、武器屋の店主なんですか?」


「そう。あんたが一緒にいた姐さんも上客の一人だ。

 いつも武器代以上の金を入れてくれる。

 ごろつきの多いあそこで入れてくれるのはなかなかいなくてな。

 あの人の金で生計を立てているようなものだ」


 確かに信頼しあっているジョンと作業員の人たち。

「これでいいか?」

 

 いかつい男がひらひらと見せた紙にはびっしりと文字が書かれていた。


「これがばれたら俺ここにいられなくなるんだぜ」

「わかってるよ。もし何かいわれたら俺に脅されたっていえば、いいから」

「了解」

 下級地区の個の長老が夫人にトリカブトを勧めた。


 ✝ ✝ ✝


「カナ・マリアン・フィート、これより刑を執行する」

「あら、早いのね」


 リマの長老の隣にはカナと因縁がある夫人がいた。


「なんてことなのです。早くこの殺人鬼をほうむってください」


「へぇ、お貴族様も代表を殺されたとあっちゃ善人ではいられないってことか」

「だまれ! お前のせいでこうなったのだ。

 早くレオナかジョンを始末すればこんなことにはならなかったんだ」


「長老!こんな話を聞いたことがあるかい?」

 カナはレオナの父親が調べたことを包み隠さず話した。


「これについて反論はあるの?」

「バカめ。知っているのは少数よ。こんな歴史もみ消してくれる」

「どうかしら。この声が聞こえないかしら?」


 遠くから聞こえるのは地響きと怒号。


「これは……」

「あんた達の制度に何人不満をもった人がいると思うの? 

 ジョン達兄弟が説得できない奴なんかいないわ」


「何があってもこの地位は渡しはせんぞ」


 そこにジョンとレオナが現れた。

「三つの地区の代表には退いていただき、新しく代表を据えさせていただく」


「あり得ない」


「この場を借りて述べさせてもらいましょう」

 レオナは高らかに告げた。

「闇に葬られた子孫たちと話し合った結果、

 カナ姐を最安全地区に据えることに決まりました」


「ふざけたことを。言うものではありませんわ」

 夫人はレオナに向かってナイフを投げつけた。

「レオナ危ない!」


 足は縛られていないカナは素早く立ち上がりレオナの前にでた。

 当然投げられたナイフはカナを射抜いた。

「さて下級地区の最後のパーティだ。

 お前らこいつらに受けた恨み晴らせる機会だぜ」


「ちょっと。私たちはなるべく平和的に」

「黙りな。これで俺達は自由なんだ」

 一度嵌められたと怒る。

 ならず者たちの怒りはレオナにもどうすることも出来ない。

 其の日沢山の血が流れた。

「これで長老たちの始末はすんだ。後は代表を決めるだけだ」

「そうね。私はジョンがいいと思う。何でも私より上手なんだから」

「ああ。そうだな」




 彼が書いたことはまやかし。世間にはそう見えていただけのこと。

 私は知っている。

 あの人がそう見えるように装っていたことを。

「私はアナタ達兄弟を利用したの。ごめんなさいね」

 誠実な彼等だった。

 でもわたしの願いを叶える為に。

「レオナは私を怨むかしら。

 私の願いは私の子孫が堂々と街道を歩ければいいと思ったわ」


「カナ、大変だ。羊皮紙が残ってたのを忘れてて」


「なんて書いてあるの?」

 そこには思いがけないことが記してあった。

「レオナは兄弟間の復讐が終わっても組織に係ることがあったなら死ぬであろう。

 これは動かせぬ運命である」


「そんなことが。すんだことだけれどこれを読んでいたら何か変わったかしら」


「無理だったろう。アイツは信念が強すぎたから。

 俺達に出来る事はあいつの願いを叶えるだけだ」

「そうね。これからだもの」

 

 カナとレオナの想いはかなったのだろうか? 

 それは遠い未来の人間が下すことだろう。

   

 END             

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この世の不条理 完 朝香るか @kouhi-sairin

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