だいさんわ
彼らの決戦は、ある高い塔の争奪という形を取っていた。その塔の名前も地球の言葉では表現不可能であるのだが、便宜上『ヴィスパの塔』と呼称することにしよう。
ヴィスパの塔の上には、不思議な雨が降った。その雨は、この星のほかの土地に降るような蜜の雨ではなく、澄んだ液体であった。その液体は、地球の言葉ではジハイドロゲン・モノオキサイドという。式で表すとH2Oである。もっと単純に言うと、つまり水であった。
「ヒーホー! 新兵器! パンプキン・ボムを食らうでヒーホー!」
ククルビタ族の戦士たちは次から次へと爆発した。自爆攻撃であった。あたり一面に、焼きカボチャのいい匂いが漂っているのだが、それを感知する臭覚の機能は両種族のどちらにもない。で、ヴィスパの塔の一階部分が爆撃によってかなり深刻なダメージを受けることになった。
「負けるかホーヒー! 必殺! カブカブ引っこ抜き攻撃!」
「ホーヒー!」
「ホーヒー!」
ルタバガの力自慢たちは、いったいどういう意図があってのことなのか、ヴィスパの塔につかみかかり、それを引っ張り始めた。さすがに塔が根元からすっぽ抜けたりはしなかったが、ククルビタ族の爆破攻撃によって脆くなっていたヴィスパの塔は、その衝撃によって哀れ無残にも一階部分から倒壊し、物凄い轟音を立ててその場に倒れた。両部族から多くの者がその下敷きになって命を散らせることになったが、もっと肝心な問題があった。
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
「命の水が!」
塔が崩壊してしまったので、両種族の兵士たちが大いに嘆いた。塔の頂上に蓄えられていたジハイドロゲン・モノオキサイドは彼らにとって貴重極まりない資源であり、そして崇拝と信仰の対象であった。実際にはそんな効果は全然ないのだが、不老不死をもたらす霊薬である、とも信じられていた。
で、その後両種族がどうなったかというと。
「ヒーホー! 塔がもう一回出来上がるまで、戦争はお預けヒーホー!」
「ホーヒー! それはこっちの台詞だホーヒー!」
これまで何百何千回と繰り返されてきたように、彼らはまた新しい塔を建造し始めるのだった。
茜色した思い出へ きょうじゅ @Fake_Proffesor
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