第74話 天使の力

 三戸はバルカン砲による空中格闘戦からミサイルによる攻撃に切り替え、光線を撃たせぬよう一撃離脱戦法を取った。

 直線的な動きになりがちなバルカン砲による攻撃ではなく、ロックオンしては位置を変え、とにかくヘキサゴンを背にしないように位置取りを注意しつつ、尚且つ自分に注意を引き寄せ続けるという綱渡りのような戦闘。

 しかしミサイルによる攻撃は、黒翼の天使が光線を発射しミサイルを迎撃するという芸当をやってのける為、全くダメージを与えられていない。


「だが、迎撃するって事は、当たったら痛いってことだからな!」


 三戸はそこに僅かながらも勝機を見出していた。迎撃で爆発したミサイルの煙により視界を奪い、攻撃を繰り返せばいずれは……


「よし、ここッ!」


 爆炎で黒翼の天使の視界を眩ませ、三戸はF-2の機首をグンと上げて急上昇させる。そしてそのまま黒翼の天使の頭上を取り、ロックオン。


「くらえ!」


 すぐさま空対空ミサイルを二発発射する。完全に敵の虚を突いた。三戸はそう確信する。


「なにっ!?」


 しかし、ミサイル発射直後に三戸が見たものは、全く体勢を変えることなく、赤く輝く左手を頭上に掲げた黒翼の天使の姿だった。


「くっ!!」


 すぐさま回避行動に移る三戸だったが、既に放たれた赤い光線は二発のミサイルを破壊し、そのままF-2の主翼を掠めて行った。

 ほんの少し、翼の先を掠めただけ。しかし、ほんの少しだけ掠めていったその翼端にはミサイルが装備されている。

 ミサイルが誘爆を起こしたF-2は、火の玉となって墜落していった。


「マスターーーーーッ!!」


 アンジーの悲痛な叫びが戦場に木霊する。


「マスター! マスター!」


 ヘキサゴンの真ん中に陣取り火器管制に集中していたアンジーが、居ても立っても居られなくなり撃墜されたF-2の方向へ飛び立った。

 アンジーはセンサー類を駆使して三戸を探す。希望はある。自分が健在であること。それは三戸が生存している証に他ならない。そしてアンジーはついに三戸の反応を捉えた。


「いたっ! マスター!」


 三戸は地面に伏し気を失っていた。どうやら間一髪脱出に間に合ったらしい。しかし爆発の余波に巻き込まれたようで、全身に酷いダメージを負っていた。

 アンジーは三戸を気遣いながらも黒翼の天使をキッと睨みつける。


「よくも……よくもマスターを!」


 普段のアンジーからは想像もつかない怒りに満ちた表情と、射殺さんばかりの視線を浴びせながら、あるものをズラリと出現させた。

 陸上自衛隊の最新鋭、10ヒトマル式戦車。これが五輌、三戸を庇うように横一線に並ぶ。主砲である44口径120mm滑腔砲かっこうほうが一斉に黒翼の天使に向けて照準を定めた。

 五本の砲身から少しずつタイミングをずらして砲弾が発射される。例によって黒翼の天使が右手を掲げて砲弾を迎撃しようとするが、その速度を見誤ったか、右手に直撃を受けた。

 黒翼の天使の右手がはじけ飛ぶ。続けて着弾する四発の砲弾もその身体を破壊していった。


*****


 巨大な体躯を持つイフリートに対峙しているジャンヌと関羽。

 燃え盛る身体と圧倒的魔力、そして威圧感。しかしそれに気圧されることなく闘志を燃やし、二人は武器を構えていた。


「さて、雲長よ。あやつが相手ではちと相性が悪いが?」

「ふ。斬り捨てるまでよ」


 木の属性を持つ青龍にとって、炎の魔人イフリートはまさに天敵。それでも真っ向から戦うかと青龍は問う。

 しかし関羽は根っからの武人だった。青龍の属性の助けがなくとも、自分自身の力が衰えた訳ではない。自らの斬の属性をもって立ち向かうのみ。


「あなたとあの魔人、どちらの炎が強いのかしら?」

「ふん、舐めるな。あんな堕ちた魔人如き。俺は聖獣だぜ?」


 挑発的な笑みを浮かべながら語るジャンヌに、ブリューナクが軽く笑い飛ばすように答える。


「矮小な人間よ。いかに聖獣の力を借りようと我は倒せぬぞ」


 イフリートは拳を握り、腰だめに構えた。


「やってみなければ分からないわよ?」


 ジャンヌが槍を振るい火球を飛ばすと、同時にブリューナクがイフリートに飛び掛かる。


「それがしの青龍偃月刀に斬れぬものなし!」


 関羽が青龍偃月刀を振るい斬撃を飛ばす。一振り、二振り、三振り。その刃風は風の斬撃となってイフリートに襲い掛かった。

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