第73話 黒翼の天使

 ジャンヌと関羽がイフリートと対峙している一方で、アンジーが火器管制に集中していた事で、ヘキサゴンの戦況は優位に進めていた。いや、むしろ圧倒的とすら言えた。

 各種対空火器や対地攻撃用ミサイルなどの火力は数で攻める魔物を蹴散らし、ヘキサゴンに近付く事すら許さない。

 また、現地で志願してきた兵達も、数は少ないながらも現代兵器に対応してきており、ターキーから借り受けた弾薬を使い切った後はアンジーから与えられた89式自動小銃に切り替えていた為、その攻撃力は上がっていた。


「現地の兵隊さん達のお陰で、少し余裕が出来ました! 殲滅速度を上げちゃいましょう!」


 アンジーは三機ものアパッチ・ロングボウを出現させ、遠隔操作で攻撃を始めた。すでに魔物の空戦戦力はかなりの数が落とされており、残りも僅かだ。そこへ投入された空中機動兵器は迎撃・・から反攻・・へ転じる切っ掛けとなった。

 空から容赦なく攻撃するアパッチに対して地上の魔物は対抗する術を持たず、逃げ惑う事しか出来ない。


 ――ドゥン!


 しかしそこで、アパッチの一機が爆散した。


「何!?」


 突如の出来事にアンジーが目を見開く。その視線には、黒翼の天使が放った攻撃が二機目のアパッチを撃墜する光景が映っていた。


*****


 飛行型の魔物も相当数が落とされ、さらにアンジーがアパッチ・ロングボウをも投入したことを確認した三戸は、黒い翼を持った天使のような姿の巨人へと、F-2の機首を向けた。

 その翼をはためかせる事もなく空中に留まっている黒翼の天使に、挨拶代わりとばかりに20mmバルカン砲を撃ち込む。


「何ッ!?」


 しかしその弾丸は巨人に届くことなく弾かれてしまう。


「バリアか障壁か?」


 銃弾が巨人を覆う透明な膜のような物に阻まれてダメージを与えられない。


「それなら、もっと至近距離からなら!」


 三戸はさらに巨人に接近しながら再び20mmバルカン砲を発射する。しかし貫通できない。だが、表情がない黒翼の天使の顔色は分からないが、嫌がってはいる。その証拠に、今まで全く動かなかった巨人が右手を上げ、弾丸を遮るように手のひらでガードしたのである。

 手のひらに遮られたか、それとも膜のようなものが防いだのか、銃弾がパラパラと落ちていく。


「!?」


 すると、その巨人の右手が赤く輝き出した。


「なんかやべえ!」


 三戸は全身で危機を感じた。操縦桿を引き機体を右上に向け、スロットルを開く。その直後、巨人の手のひらの赤い輝きが収束され、光線となって放たれた。

 数瞬前までF-2が居た場所を光線が奔っていく。そしてその光線は三戸の後方にいたアパッチ・ロングボウを貫いた。その光線はアパッチを貫いても尚健在で、彼方まで飛び去っていく。


「なんて貫通力だよ……」


 三戸はその威力に舌を巻く。直撃を受ければF-2の装甲など紙切れ同然だろう。

 この先は神経を削るようなシビアな回避行動が要求される。操縦桿を握る三戸の手が汗ばむ。


(あの手の光が収束してから避けたんじゃ間に合わねえ。だが、手が光るって予兆はあるんだ。やってやるさ!)


 幸い、光を見た瞬間に死んでいた、なんて理不尽なものではなく、予兆は察知できる。三戸は『手のひらの光』に細心の注意を払い、空中戦を挑んだ。


「――!! 来る!」


 黒翼の天使の右手に再び赤い光が灯り、それが収束していくのを認めた三戸は、機体をロールさせて回避行動に移った。間一髪、機体スレスレの所を光線が通り過ぎる。


 ――ドゥン!


 三戸の後方で何かが爆発する。

 首を回して後方を確認した三戸の目には、墜落していくアパッチの姿があった。


「コイツ、まさか俺とアパッチの射線が重なる瞬間を狙ってやがるのか……?」


 一度目は偶然で片付けられるかもしれないが、二度目となれば必然と考えなければならない。この黒翼の天使は、脅威となる空戦機動兵器を潰そうとしている。

 そしてその事実は、更なる負担を三戸に強いる事になった。


「ヘキサゴンを背負っては戦えない……か」


 三戸が避ければ光線がヘキサゴンを直撃するかもしれない。三戸はとんでもないハンデを背負って戦う事になった。

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