第68話 脅威倍増

 相変わらず大地は揺れている。防壁上に上った三戸達も、どうやって迎撃したものか思案していた。

 敵は飛行型の魔物も多数いるが、どうやっているのか空中の巣穴からゆっくりと降下して、地上から攻めてこようとしている者の方が多い。


「ミト殿! こう揺れていては上手く狙いを定められません!」


 銃を持った志願兵達からそういう声が聞こえてくる。


「無理に狙わなくていい! 近付けないように弾幕を張れ!」

「はっ! 了解です!」


 三戸は隊長に指示を出すと、続けてアンジーにも叫んだ。


「アンジー! 遠隔でガンタンク操作できるか? それとciwsもフル稼働で迎撃だ!」

「はいっ! お任せですっ!」


 ヘキサゴンを丸ごと移動させたため、周囲を守ってくれていた堀は元の場所のまま。防壁こそ健在だが、防壁が崩れればそれを修復できるリチャードが使えない今、敵の侵入を許したら最後ヘキサゴン内部は壊滅してしまうだろう。

 それでもアンジーの遠隔操作でciwsとガンタンクを起動すると、対空防衛において絶大な火力を発揮した。揺れのおかげで照準は定まらないまでも、厚い弾幕は魔物を近付けさせない。

 

「……? 攻撃を仕掛けようとしているのは飛行型の魔物だけか?」


 魔物の動きを見ていた三戸が不審に思い、空中の瘴気の穴から続々と降下してくる地上型の魔物を注視した。その地上型の魔物に動きがないのだ。


「うむ。この揺れでは奴らも動けぬようだな。それならばそれがしと青龍の能力で力を削いでおこう」


 関羽も三戸と同じことを考えていたようだ。青龍の属性である『木』に関羽の属性『斬』を上乗せされた樹木達が、魔物を斬り裂かんとゾワゾワと動き出す。


「それなら、ブリューナク! あなたは飛んでいる敵を!」


 次いで、ジャンヌが空を目掛けて愛槍ブリューナクを投擲した。通常ならば穂先から放出した火球を操るのだが、ここは防壁上。接近戦になるまでは時間がかかるとの判断だろう。それにこの揺れでは槍を振るおうにも満足に動けるとは思えない。

 投擲されたブリューナクは朱雀の姿となり、空中を飛び回る魔物を駆逐し始めた。


「やっぱり、関さんに攻撃されても地上組のやつらは動かないな。揺れが収まるのを待つつもりか?」

「うむ。このヘキサゴンが移動するとは、奴らにとっても計算外だったのだろうな。何か、機を逸したのかも知れん」


 機を逸した。三戸はその一言で何かが繋がった気がした。

 本来はヘキサゴン直上に出現した瘴気の穴から飛行型魔物が強襲し、地震で満足に動けない救世者メサイア達を制圧する。その上で地上型の魔物の数が揃い次第、このヘキサゴンを拠点にスクタリの市街地を襲う……そんな筋書きだったのではないか。そう考えれば、地震は魔物が起こしたとしても不思議ではない。

 恐らくヘキサゴンが移動さえしていなければ、地上型魔物は反撃を受ける事なく、ヘキサゴン内部で地震が治まるのを待つだけ。そういう計算だったのかも知れない。

 

「そうなると、巣穴をブッ潰さないと地震は止まらないってか」


 考えが纏まった三戸は、やれやれといった具合に首を振る。


「それならばマスター! 私も空の魔物を!」


 アンジーが地震の影響を受けない空中から攻撃すべく、銀色の装甲と武装を身に纏ったファイターモードで空に舞い上がる。

 しかし、アンジーは戦う事なく南を見て叫んだ。


「マスター! 南から! 南から接近して……」


 アンジーが嘗てない程動揺していた。三戸も、ジャンヌや関羽、サラディンも南を見る。


「なんてこった……」

「そんな……」

「これは……」

「……」


 誰しもが自分の目に見えている光景が信じられない。そんな反応だった。


 ――瘴気の穴が、南からヘキサゴンに向かって地表を移動していた。


 瘴気の穴が二つ同時に侵攻してくる。しかも明らかに標的はヘキサゴン。魔物は人類ではなく、目的の妨げとなる救世者メサイアを標的に定めた。そういう事らしい。

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