第14話 軍神の力
鷲型デーモンは中々の空中機動性だった。劣勢ながらもアンジーと空中戦をやってのけている。
『クアアアアアアアアァァ!!』
鷲型デーモンが雄叫びを上げると、それは衝撃波となってアンジーを襲う。彼女は両腕でクロスガードしながら、ダメージを逃がすべく身体は正面を向けたまま後方に加速する。そこに、トライデントを振りかぶり間合いを詰めようとする鷲型デーモン。しかしその背中は三戸に向けられていた。
「上手いな、アンジー」
四連装ランチャーから発射された誘導弾ががら空きになった背中に直撃し、鷲型デーモンは憤怒の表情で三戸の方へ向き返る。
構えたトライデントを三戸に向かって投擲しようとしたが、それは叶わなかった。
地上に備えた4基のciwsの弾幕が鷲型デーモンを襲う。先程の誘導弾のダメージが効いていたのだろう。地上からの火器による攻撃を脅威と判断したのか、鷲型デーモンは回避行動に移った。しかし脅威は何も地上からの攻撃だけではない。
「甘いですね!」
鷲型デーモンの回避行動を阻むように、アンジーは冷却が終えた20mm機関砲を構え弾幕を張る。さらに、両腕と両腿に装備したミサイルを計8発、一斉発射した。
そこへ追い打ちを掛けるように、位置を変えた三戸が携帯用地対空誘導弾で砲撃する。逃げ場を失った鷲型デーモンは、全身に攻撃を浴び爆発を起こした。
「マスター! 右翼、破壊しました! 揚力を維持するのは困難と思われます!」
「よし、アンジー、良くやった! 空の残敵は任せる!」
「はいっ!」
褒められて嬉しかったのか、アンジーは両手で頬を押さえ、クネクネしながら腿のミサイルを乱射していた。
一方、揚力を失い不時着した鷲型デーモンは、ボロボロになりながらも戦意は衰えていない。
「……頑丈なヤツだな。あれだけ砲撃を受けてもまだこれか」
三戸が半ば呆れていると、鷲型デーモンがブォン! とトライデントを振るった。その一閃から生み出された衝撃派が三戸達を襲う。
「問題ない」
関羽が一言そう呟くと、三戸とジャンヌの前に立ちはだかった。
「覇ッ!!」
関羽が青龍偃月刀を一閃すると、衝撃波は相殺されてしまう。
「ふん、益徳の闘気の足元にも及ばぬ。ミト殿、あやつはそれがしに任せていただこう」
益徳とは、劉備、関羽と義兄弟の契りを交わした張飛のことである。あれで張飛の足元に及ばないとか、三國志の英雄達は化け物ばっかりか、と内心呆れながら、三戸は鷲型デーモンへと駆けて行く関羽の背中を見送る。
「そういう事だそうだ。ジャンヌ、地上の残敵は俺達でやるぞ」
「はい!」
△▼△
一本一本が金属で出来ているかの様な体毛で覆われている鷲型デーモン。そして猛禽類がそうであるように、下肢は非常に発達している。片翼はもぎ取られたが、油断できる相手では無い。むしろ地上戦の方が手強いのではないかとすら思わせる。
「惜しむらくは手負いである事か。万全であるならば少しはいい勝負が出来たかも知れぬ。しかし空を飛び回られたのでは手が出せんのでな。悪く思うな」
鷲型デーモンの強烈なプレッシャーを正面から平然と受け止め、それで尚相手に取って不足であるとも言いたげな関羽。
言葉によるコミュニケーションは不可能だが、自分では物足りぬと言いたげな関羽の余裕は感じたのだろう。鷲型デーモンはその強靭な脚に力を籠め、そして大地を蹴る。
蹴られた大地が爆ぜ、土煙が舞い、弾丸の如きスピードで関羽に迫る。そして三又の槍、トライデントを関羽に向けて突き出す。
「ぬん!!」
関羽はトライデントを受けるでも躱すでもなく、三又の凹部分に青龍偃月刀を叩き付けた。百九十センチを超える関羽の、更に三倍はあろうかという鷲型デーモンの巨大な質量が加速して繰り出した刺突が弾き返される。
数メートル後退させられた鷲型デーモンは、信じられないと言った表情をしたがそれは一瞬。目前に関羽が飛び込んできていたからだ。
「むぅんッ!!」
関羽の横薙ぎの一撃をトライデントの柄で受けようとするが、それは悪手だった。青龍偃月刀の刃が蒼く輝いている。発光した刃の一撃は、トライデント諸共鷲型デーモンの腹を切り裂き臓物をぶちまけさせた。
関羽はトン、と一歩後退し間合いを取る。鷲型デーモンが膝から崩れ落ちたのは数瞬前まで関羽が立っていた場所だ。
「ふむ。両断出来なんだか。流石と言うべきか。それともそれがしの未熟故か」
どうやら関羽は、トライデントごと一刀両断にするつもりだったらしい。しかし鷲型デーモンはまだ息絶えてはいない。左手で腹を押さえながら右腕を地面につき、立ち上がろうとする。その視線は関羽を捉えて放さない。
「その朽ちぬ闘志、見事! 我が奥義にてお相手しよう」
関羽は数メートルその場から離れ、上段に青龍偃月刀を構える。
「出でよ、青龍!!」
裂帛の気合で一閃、輝く刃から放たれた斬撃は蒼き龍の姿となり、鷲型デーモンへ襲い掛かった。
関羽の持つ青竜偃月刀の刃から生み出された龍は、蒼き
「お見事でした。関羽様」
「凄いな。まさか龍が出るとは」
「東洋の龍とは、あのように細長いものなのですね!」
残敵の掃討を終えた三人が、関羽の元へ集まって来る。
「皆のおかげだ。あの技は、あのような大物一体を相手するのにはよいが、集中せねばならんのでな。周りの雑魚共にはスキを与えてしまうのが難点なのだ。頼れる仲間があってこその技よ。む? 瘴気の穴が消えて行く?」
空中にぽっかりと空いていた魔界と繋がる空間が徐々に閉じて行く。やがて穴は完全に消滅し、晴れ渡る青空が広がる。
「さて、この時代の、ここでの役割は終わったようだ。次は何処へ行くのやら、だな」
三戸が少しお道化た様に言うと、アンジーが三戸の手を握りしめて言う。
「また違う時代の違う場所へのタイムトラベルですね! マスターとご一緒出来るなら何処へ行こうと素敵な旅になる事間違いなしなんです! 楽しみです!」
「あらあら、アンジーったら。私もミトに同行するのよ? 二人きりじゃないのよ?」
「うむ。それがしも同行させていただく。この戦いが、やがて生まれ来る魂が生きるべき世界を救うのならば、是非とも参戦せねばな」
「はいっ! お二人とも宜しくお願い致します! 旅は大勢の方が楽しいですよねっ!」
前回のドーバー海峡での戦いと同じく、足元が青く光り始め四人を包み込む。
「アンジー。これは旅行じゃねえ……」
「はっ!?」
ともあれ、『軍神』関羽を仲間に加えた一行は、時空を超えていずこかへと旅立つのだった。
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