何の取柄も無かった俺が|能力《ちから》を手に入れて世界を好き勝手する

橘 桜華

第1話 突然

今俺は、目の前のが全く理解ができず、ただ困惑している。

なぜなら、江戸村さながらの光景と行き交う商人、そして腰に日本刀を携えた侍達。

念のため確認しようと思い、露店商人に声をかけた。

「すいません、今は何年でここはどこですか?」

「いらっしゃい!って、何だい兄ちゃん客じゃないのか、今は元和げんな2年の卯月うづきで、ここは河越かわごえだよ。」

「すいません、いつか客としてお伺いします、ありがとうございます。」

 マジかー…本当に江戸時代で、卯月って事は4月しかも川越って埼玉じゃんか。

少し情報を手に入れたので状況整理をする。

 さかのぼること数時間前、俺は都内在住の大学二年生「天木詩静婁あまきしずる」。

しずるって名前は普通だと思うが、いかんせん漢字がコレだからよく女みたいとからかわれる。

名前は霊感のある親戚しんせきのおばさんが、霊に憑かれない様に、と名付けてくれたらしい。

特にこれと言った特技もなく取柄とりえも無い、大学もなんとなく進学してやりたい事もない。

そんな俺が人と変わってると言えば、霊が見える事位だ。

平凡な毎日を送っていた、はずだった。

いつも通りスマホのアラームで7時半に起き、着替えや出かける支度をテレビを見ながらして、七月の暑い日にマンションを出て退屈な大学に行き、午前の授業を終えお昼を食べようと。

食堂に行って、いつも通り日替わりランチを食べ終え、そこで変な話を聞いた所までは覚えている。

変な話というのは、「俺実はさ、タイムリープできるんだよね」

「嘘だーお前、話盛ってんだろ!」「本当だって、今日宝くじ一等当ててるんだよ」

というくだらない話だった。俺はその自称タイムリーパーと、すれ違いざまに肩が

ぶつかった瞬間気が付くと、この2に居た。

 5分~10分考え事をしてたせいか、露店商人に話しかけられた。

「なぁ、兄ちゃんよー。うちの店の前で突っ立ってられると客入りが悪くて困るんだが、見たところ旅客りょきゃくか?珍しい恰好かっこうしてるし。」

どうしよう…何て返答するのがベスト何だ?とりあえず旅客でいいか、でもこの時代のお金持ってねー、ある程度正直に話してみても良いかもな。

「えっと旅の者なのですが、ここに来るまでで銭を使い果たしてしまって…実は今日泊まる宿代すら無いんですよ。」

「ほう、そうかい…そりゃ大変だな、けどなこっちも商いなんでな、他所よそ行って考えてくれ。」と言い背中を向けて、露店商人は戻って行く。

その時、露店商人の背中に憑いている女性の霊が見えた。

咄嗟に呼び止めて「すいません店主さん。最近、身内か親しい女性が亡くなりませんでしたか?」

「あぁ?いきなりなんだい兄ちゃんよ。そりゃ去年長屋でお隣さんの奥さんが亡くなって結構騒ぎになったから、よく覚えてるがそれがなんだい?」

「その日位から、右肩が重いとか右腕が上がりにくいって事が続いてません?」

店主はしばらく考えると

「確かに兄ちゃんの言う通りだ。特に最近は飯食う時にも腕が重てぇな。」

俺はこの時確信した。きっと現代に戻るには、自称タイムリーパーにそっくりなこの店主さんを助ける必要があると。

「俺、店主さんを助けられます!ちょっとそこに背中を向けて座ってもらえませんか?」

店主さんは俺の言葉を怪しんでいるのか、しばし薄っすら髭が伸びた顎に手を置いて考えている。

勢いで言ってしまって少し後悔はしているが、俺は根拠が有って言っている。

幼い頃より霊に憑かれやすい体質な為、簡単なお祓いなら名付け親のおばから習っているのだ。

結局、店主さんは俺の依然とした態度から根負けしたのか、座ってくれた。

そしておばから教わったお経を唱え終わると

「おぉ!すっかり肩が軽いや。兄ちゃん大したもんだ、お礼って事でウチで良けりゃ泊まってくかい?」

店主さんの勢いと迫力に押され

「ひゃい!」と変な言葉が出てしまった。

改めて「治ったのなら良かったです。泊まらせて頂いていいのですか?」

すると店主さんは「店閉めるまで手伝ってくれたら、飯も食わせてやるよ。」

あれー…?霊を祓うだけじゃ現代に帰れないのかよ!と、心の中でノリツッコミをし、何故か持っていたスマホで時間を確認するとまだ13時だった。

この時代の人たちは、まだ蝋燭ろうそくや明かりが確保できないので日が暮れる頃には寝るという生活を行っている。

店を手伝いながら店主さんに名前を伺うと、田吾作たごさくさんと言うらしい。

こちらもちゃんと詩静婁と名乗ったのだが、何故か名前で変に笑われてしまった。

店の手伝いが終わり、いよいよ田吾作さんが住む長屋に案内された。

そこは、期待していた場所とは違っていた。

まず、今で言うトイレであるこの時代のかわやは、共同で使うものでボットン便所とも違ってただの穴に木の蓋がされているだけである。

もちろん風呂なんてものは無く、湯屋ゆやという銭湯みたいな公衆浴場だけで田吾作さんによると、ここの長屋から結構遠いので通うのはこの時期三日に一回らしい。

そして田吾作さんが約束通りご飯をご馳走してくれたのだが、ご飯すらも時代劇とは程遠い。

まずご飯だが、あわひえと言った雑穀米で白米はない。

食事に関しては、雑穀米は色々な食感や味があって個人的には好きだ!

対するおかずだが、ほぼ具無しの味噌汁とたくあんが数枚あるだけ。

それでも田吾作さんが作ってくれて、感謝している。

今は、田吾作さんの最近あった事を聞きながら

申し訳程度に皿洗いをしている。現代で一人暮らしをしてる俺は、こうゆうことは後に回したくないのだ。

田吾作さんの話を聞いて驚いた事が三つある。

一つは、ここに泊まることになった経緯でもある、亡くなったお隣の鈴さんと言う女性が生前浮気をしていたようだが、後に病気となった彼女を夫が全く看病しなかったので田吾作さんがお隣のよしみで看病したそうだ。

それで憑かれてもいい迷惑である。

もう一つは、田吾作さんが超が付くほどのお人好しなのだ。

自分の露店商売もあるのに、長屋の表の店を手伝ったり休みの日も長屋の子供達の面倒をみたりと、とにかくこの長屋で田吾作さんの名前を知らない者はいない。

さらにもう一つ驚いたのは、田吾作さんにはお菊という許婚いいなづけ、いわばフィアンセがいるらしいのだが、半年前にくだらない理由で口喧嘩になり今は別の長屋で暮らしているらしい。

そうして皿洗いを終えた俺は、夕日を眺めつつ寝る準備まで終わらせた。

田吾作さんにバレないように布団の中でスマホの時間を確かめるとまだ16時半だった。

10分程すると、田吾作さんのいびきが聞こえ始めた。

2036年に暮らす俺としては、夕方に寝れるはずねぇ。

いつもなら自分の部屋に帰ってきて、19時位に晩御飯や風呂を済ませて高校の同級生達とパソコンを使って雑談しつつ課題を少しやってから、オンラインゲームで盛り上がって、だいたい寝るのは23時頃だ。

土日は神奈川県の実家に帰って、母方の祖母の介護しながら豆腐屋を営んでる両親を手伝っている。

俺は、今日起こった出来事を軽く振り返ってみた。

もし仮に、あの自称タイムリーパーが本物だとしてもおかしい。

肩がぶつかっただけで、食堂から人が消えるんだぞ?

騒ぎにはならなかったのか?本物だとしてもタイムリープできるのは自分だけで、俺がタイムリープしてるのはおかしいんじゃ?

散々考えても答えが出ないし、疲れが来て気づいたら寝ていた。

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何の取柄も無かった俺が|能力《ちから》を手に入れて世界を好き勝手する 橘 桜華 @tatibana_oka

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