第39話 玻璃と瑠璃


 玻璃はり瑠璃るり




 白川紺子さんの『後宮の烏』も、ついに第1巻の最終章<玻璃はりに祈る>となりました。


 7巻のうち5巻までは読んでいるのだけど、こうして丁寧に読み返していると、読み落としていた箇所にも気づいて、再び物語のおもしろさに引き込まれます。




『後宮の烏』の2巻までは、1つ1つの章で、皇帝の高峻と烏妃が力を合わせて後宮にさまよう幽鬼の謎を解き、最後に彼らを楽土に渡してやるというものです。そして、それに絡んで皇帝と烏妃の過去が少しずつ明らかとなり、また彼らのそばに仕えるものがひとりずつ増えるという仕掛けにもなっています。


 読者は謎解きを楽しみながら、増えていく登場人物の容姿や彼らの背景が、なんなく頭の中に入っていくという上手い構成です。こういう書き方は長編ならではの醍醐味で、白川紺子さんの筆力の確かさにただただ感心しています。




 さて、今回の語彙は<玻璃に祈る>の玻璃という言葉。


 玻璃とは……。

 ① 水晶

 ② ガラス 


 ↓いつものように、『後宮の烏』の本文から抜粋です。


『高峻はふところからなにかをとりだし、つくえに置いた。ふたつある。玻璃で作った魚形だった。ひとつは透きとおったもの。ひとつは薄紅がかった乳白色をしたもの。いずれもうろこが細かく彫りこまれ、その線刻に銀泥を流し込んである』


 ……とあるのだが、ここで書かれている玻璃は、水晶のことなのだろうか、ガラスのことなのだろうか。どちらにせよ、さぞ、美しい細工ものなのだろうなと想像して、うっとりしてしまいます。


 ところで、いまどきのガラスを漢字で書けば、玻璃ではなくて硝子。


 昔の技法では、ガラスは小さな玉くらいしか作れなくてアクセサリーにするしかありませんでした。そして、それは、漢字で書くと玻璃。

 近代に入って、器や窓ガラスなど大きなガラスが工場で作られるようになって、それは漢字で書くと硝子。


 言葉っておもしろいですね。




 ついでに、玻璃はりによく似た漢字で瑠璃るりについて。


『後宮の烏』の後宮の殿舎の屋根は瑠璃色です。


 瑠璃色とは、紫みを帯びた濃い青で、瑠璃という名は、半貴石の瑠璃(ラピスラズリ)からきているそうです。北京にある紫禁城の屋根は光沢のある黄瑠璃色ですが、青く輝く屋根瓦というのも、さぞ美しいことでしょう。


 また『後宮の烏』では、妃たちの殿舎の屋根には作り物の鳥が飾られています。


 そして、そこに住む妃たちはその飾り物の鳥にちなんで、鵲(かささぎ)妃とか燕(つばめ)妃とか呼ばれている。さてさて、そこのところをアニメではどう表現するのかなと、いろいろ想像しています。


 それにしても、玻璃はり瑠璃るりも、字面の美しい漢字ですね。




 追記


 古代中国の文化文明を知るにつれて、その壮大さと富の豊かさに驚きます。


 よく『白髪三千丈』とか言って、古代中国の人はものごとを大げさに言う傾向があると揶揄されることもありますが、やはり、同じ時代の韓国や日本と比べると、その壮大さと富の豊かさは比べ物にはなりません。


 中国はインドやアラブやトルコ、そしてローマやギリシャと地続きで繋がっていたのです。『シルクロード展』を見に行ったときのこと、紀元前のガラスの小さな器を見て感激しました。緻密に刺繍された布もまた驚きです。


 いま、日本では中国は自分勝手なちょっと変な国というイメージが強いですが、中国について知るほどに、その文化文明の奥の深さに、底力というものを感じます。


 もう一つ例をあげると、中国では紀元前5世紀ころには兵法というものが確立して、その内容が文字に表されていまに伝わっています。日本人が文字を知り孫子の兵法に触れるのは、それからほぼ千年近い時間が必要でした。


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