第34話 内縫司と内染司 ≪1≫


 №26 内縫司ないほうし内染司ないせんし ≪1≫


 白川紺子さんの『後宮の烏』第一巻<花笛>の章で、内縫司ないほうしの宮女が行方不明になる場面がある。


 彼女が行方不明になった理由に、彼女の内縫司という仕事は関係ないので、小説の中に内縫司についての説明はない。しかしその字からみて、内縫司とは、縫い物に関係しているのだろうということはわかる。


 この内縫司の宮女は妃嬪の殿舎に住んでいたとの設定なので、たぶん、妃嬪につかえる侍女・宮女・宦官の着物の縫い物を専門にあつかう仕事をしているのではと想像する。


 しかしながら、妃嬪の衣装や侍女・宮女・宦官たちのお仕着せをあつらえる作業は、殿舎の片隅で数人の手で出来るものではないだろう。


 特に妃嬪や侍女の衣装は、織りや染めや刺繍に凝った特別に豪華なものであるから、その作業工程から考えるのにとうてい無理だ。また、宮女や宦官のお仕着せを妃嬪の殿舎それぞれであつらえていたら、それぞれの好みが出てきてお仕着せではなくなりそうだ。(笑)


 そういうものは、後宮の中であれば、専門の建物があって、多くの宮女たちがせっせと縫っていたのではないか。それとも、宮中御用達の商人に任せていたのかもしれない。




 華流時代劇ドラマで、後宮に住む人たちの着るものがどのように作られていたのかを取り上げたものは、まだ見たことがない。


「瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」で、後宮内の一つの建物のなかで宮女たちが縫い物に勤しんでいるシーンがあったが、残念ながらそこは刺繍専門だった。

 

 そうそう、「瓔珞<エイラク>」の中で、「一年かけて作っている皇帝の衣装がもうすぐ出来上がる」とかいうセリフがあったのを思い出した。


 そういうことから考えて、<花笛>の章で行方不明になった内縫司の宮女は、妃嬪の殿舎に住んで、ちょっとした縫い物や繕い物の仕事をしていたのではないかと想像する。





 ところで、一つ屋根の下に大勢の人間が寝起きをともにして暮らすと、発生する家事は料理と掃除と洗濯と縫い物だ。しかしながら、料理と掃除と洗濯は当然のこととして、縫い物となると今の時代の若い人は「?」だろう。


 昔々は下着一枚から始まって身に着けるもの、そして布団や手巾やカーテンなど、布を使って作るものはすべて手縫いの時代だった。工場生産したものが大量に安く売られたりはしていない。


 そしてもちろん、布も糸も、麻・綿・絹といった天然繊維だ。


 天然繊維は、ナイロン・ポリエステルなどの化繊と比べて、とても破れやすく切れやすい。常に、こまめな補修が必要だ。

「かあさんは夜なべして……」の世界だ。


 日本でも江戸時代には、番頭から丁稚までいるようなちょっとしたおたなでは、縫い物専門の女を住み込みで雇っていたとのこと。そのくらい縫い物は、家事の中でも大切なものだった。




 私は縫い物が好きで、小説を書くのも、縫い物をしている時に頭の中で膨らんできた妄想を、つねに立ち上げているパソコンにちょこちょこっと打ち込むというスタイルだ。


 実を言うと、カクヨムで白麗シリーズを書く前は、「自分はあさのあつこさんの弥勒シリーズに出てくる小間物問屋・遠野屋に住み込んでいる縫い物専門の女中で、皆の着物を縫ったり繕ったりしながら、(時には、同心・小暮信次郎のも頼まれたりして!)、かっこいい遠野屋清之介に関わっていく」という妄想でいっぱいだった。(笑)




 ……ということで、縫い物のことについて語り始めると止まりません。

 次回に続きます。




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