第30話 更(時間の単位)
№24
↓いつものように、白川紺子さんの『後宮の烏』より、第一巻134ページからの抜粋。これは『花笛』の章の冒頭の文章となります。
『夜も二更(午後九時―午後十一時)を過ぎたころ、寿雪は部屋の奥にある通路を進むと、綾絹の帳をひらいた。その向こうは小部屋になっており、壁際には祭壇がしつらえてある』
「えっ、更って、何? 古代中国の時間の単位って、
――更とは、夜間の時間を計る単位。昔、一晩を五更に分けて夜警の当番が交代していたことによる。一更は約二時間で、順に初更・二更・三更・四更・五更という――
という記述を見つけました。
……ということで、 古代中国を舞台にした小説で時間の単位に更が使われていたら、それは夜のことだと思ってよいということです。そしてなんとなんと、更は日本でも使われていたとのことで、<夜が更ける>の更けるという漢字はここからきているとのことです。
それにしても、一更が午後9時から午後11時とは、なんともアバウトな時間のとらえ方です。これは、時間の始まりが、朝は日の出から夜は日の入りからだったためです。夏と冬では、日の出日の入りに2時間くらいの差があるということでしょう。
古代中国を舞台に物語を書く時、頭を悩ませる問題はいくつもありますが、時間の単位もそのうちの一つでしょう。
もっともポピュラーなのが、日本の江戸時代と同じく十二時辰といって、干支を使って一日を12分割したもの。子の刻とか丑の刻とかいうように、刻を単位に使います。
しかし中国は長い歴史があり、その間には多くの国が興りました。国によっては、一日を10刻に分けたり100刻に分けたりとか、その他にもいろいろあったようです。
そういえば、好きでよく見る華流時代劇ドラマですが、思い出そうとするのに、時間の表現についての記憶があまりありません。
私の記憶が曖昧なのか。
それともドラマの中での時間表記をあえて曖昧にしているのか。
どちらなのでしょうか?
まあ、時間の単位は時代や国によって、まちまちではあるし。
そのうえに、基準が季節によって2時間ものずれがある日の出日の入りなのですから、なかなかにやっかいな問題です。
そもそも撮影の期間が限られているせいか、ドラマの中では、季節の設定もあいまいです。いたしかたのないことでしょうが、風景にも季節が感じられず(木がずっと枯れ木のままだったり)、夏でも冬でも、登場人物たちの衣装も同じです。
中華ファンタジー小説を書くのであれば、あえて、時間の単位のことはあまり真面目に考えないほうが無難ともいえます。あえて、明け方ごろとか、中天に陽が高く上ったとか、夜も更けたとか、そういう描写にしておいたほうが間違いがないように思われます。
そしてどうしても必要な時に、一刻を約2時間とみなして、一刻(2時間)半刻(1時間)四半刻(30分)という言葉を使うくらいにしておいたほうがよいような……。
最後に、いろいろと調べていたら、
書く小説のどこかでさりげなく使うと、いかにも中華ファンタジー小説という雰囲気が漂うのではと思います。
ところで話はそれますが。
『史記』を書いた司馬遷は文筆家でもありますが、宮廷においては有能な文官でした。前漢の暦を作る仕事にも携わっています。
司馬遷は紀元前の人ですが、当時にあっても天体観測によって、閏年のこともわかっていました。
一年を季節によって区分し、一日を日の出日の入りによって区分していたというアバウトな概念ではなくで、古代中国でも、かなり正確に時間の流れについては把握されていたようです。
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