第28話 佩き飾り


 №22 き飾り



 白川紺子さんの『後宮の烏』、第一巻93頁より抜粋。


 ふり返ると、高峻は腰帯につけた佩き飾りをひとつ外して、寿雪にさしだした。

「……なんだ?」

 意味がわからず眉をよせると、高峻は寿雪の手をとり、佩き飾りをのせる。琥珀でできた小さな魚形の飾りだった。




 華流時代劇の映画やドラマで見る、身分の高い男性の衣装。


 彼らは帯の前の部分に、いくつもの飾り物をぶら下げている。

 玉石を彫った物を、美しく編みこんだ紐に結んでいる。


 検索して調べると、<佩き飾り>のことを佩飾はいしょくといい、玉で彫られた飾り物を佩玉はいぎょくというらしい。


 そして、正倉院の宝物として、サイの角で彫られた魚の形をした佩き飾りの写真も見つけることが出来た。もしかしたら、白川紺子さんもこの正倉院の宝物から、ヒントを得られて『後宮の烏』に書いたのかなと、想像する。



 ところで、なぜに佩き飾りが魚形であるのか?


 日本人である私は、そのような身分の高い人が身に着ける飾り物だと、龍とか麒麟とか牡丹の花とかを想像してしまうのだけど。そこらへんの川や池にいるような小魚とは。


 しかし、以前に何かで、中国語の魚の読み方は、縁起のよいなんとかいう漢字の読み方に似ているとかいう記述を読んだような。ちょっと記憶は定かでないのだけれど。



 ところで、どうやら中国語では、この発音が似ているからとか、漢字の形が似ているからということで、吉兆の意味合いを持たせるということが多いようだ。



 私が知っている中で、一番印象深いのは『蝙蝠こうもり』だろう。


「蝠」字が「福」と同音であることから、慶事、幸運のしるしとして『蝙蝠』は縁起のよい生き物なのだそうだ。私としては、時に換気扇の隙間から家の中に入ってくる『蝙蝠』は、どうにも気持ち悪くて、困った代物なのだが。



 そのほかにも調べてみると、日本人の感覚としてはとんでもないものが、縁起がよかったり悪かったりで、おもしろい。


 しかし、あまりにも知り過ぎてこだわり過ぎると、この漢字は使ってよいものだろうかと悩みだして、気軽に中華ファンタジー小説が書けなくなるおそれがでてくる。(笑)


 そうそう、日本でも、四の読み方が死と同じなので、4の番号はあえて避けるということを昔はしていた。


 私が子どものころは、ホテルの部屋番号で4番がなかったり、駐車場で4番がなかったり。でも、いまではそういうのも見かけなくなったが。



 そういえば、漢字に対してこういうひっかけ遊びとか語呂合わせみたいなこと、いまの時代ではあまりしないのではないか。迷信を気にしなくなったというのもあると思うけれど。


 毎日毎日、いろんな国の言葉が目や耳にはいってくるし、ファッションとかIT関係などの新しい言葉も、目まぐるしいほどに生まれてくる。


 昔は文字に魂が宿ると信じられていたが、いまではそんなことを考える余裕もない。文字は、ただの記号なってしまったようだ。




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