第26話 刀と剣


 №20 刀と剣


 白川紺子さんの『後宮の烏』から抜粋した中華風語彙に、ネットで調べた解説やら自分のくだらぬ蘊蓄うんちくを書き散らそうという試みのこのエッセイ。まだ1巻の1話『翡翠の耳飾り』も終わっていない、序盤の序盤なのですが……。



 自作小説『白麗シリーズ』を書いている途中で、刀と剣の違いに迷いが生じたので、いまのところ『後宮の烏』には関係のない語彙ではあるのですが、ちょっと調べてみることにしました。『後宮の烏』では、衛青と温螢という武官の宦官が登場するので、そのうちに刀を抜いて戦う場面もあると思うのですが、その場面を待っておれない状態です。




 ところで、これを読んでくださっている皆さまは、刀と剣の違いをご存じでしょうか?



 おおざっぱな分け方としては、刀は片刃です。

 一方側に刃があり、刃のない方をみねもしくはむねといいます。峰打ちという言葉がります。峰打ちで死ぬことはないでしょうが、けっこう痛くて、骨折ということもあるらしいです。


 刀とちがって、剣は諸刃です。両側に刃があります。

 両側に刃があるので、振りかぶった時などに、自分も斬ってしまうことがあるとか。そこから出た言葉が、<諸刃の剣>の例えです。


 おおむね、日本刀は刀で、西洋の刀は剣です。

 武士の時代より前は、日本も諸刃の剣だったらしいです。日本神話に出てくる神さまが使ったのは剣です。



 日本の刀はその形状から文字通り斬るという使い方、そして西洋の剣は突いたり叩きつけたりする使い方をします。


 どうしてそのように違うのかというと、西洋は武具として金属製の鎧を身につけたからです。金属製の鎧の隙間をねらって突くか、もしくは力任せに叩くしかありません。


 そして、日本と西洋で刀は、その作り方も違います。


 日本の刀は刀鍛冶さんが、地金を叩いて伸ばして重ねてまた叩いて重ねて伸ばすを、何度も繰り返します。刃こぼれしやすく折れやすいですが、切れ味は抜群です。

 

 西洋の剣は、鋳型に溶けた鉄を流し込む鋳造で作ります。作り方としては簡単なので、大量生産も可能でしょう。そして、こちらは切れ味よりも、丈夫さが重視されます。



 ……と、ここまで書くと、刀と剣の違いははっきりしていて悩むこともないようですが。


 では、日本刀を使いながら、剣道というのは? 

 また『燃えよ、剣』なんていう、刀を振り回す新選組を描いた小説が、なぜあるのでしょうか? 


 どうやら、剣という言葉には、その見かけだけではない<神聖>とか<精神>とかいうものを含めた考え方があるようです。しかしながら、このことについては、これ以上調べるとめんどうなことになりそうなので、今回はスルーです。




 ……で、中華ファンタジー小説で使用されるのは、刀なのか剣なのかですが。


 自作小説の中華ファンタジーではどちらかに統一したいのですが、これが、考えれば考えるほど、「?」が頭の中でいくつも点滅してしまう難しい問題となってしまいました。


 白麗シリーズに登場する大男で怪力の魁堂鉄が持っている、力任せに相手を横にも縦にも真っ二つにしてしまうものは、やはり諸刃の剣のイメージです。そして片腕の主人公・荘英卓が天帝よりもらったものは、軽くて触れる前に斬れるという神聖なイメージからして、刀のイメージとなります。


 そしてまた日本刀はその形がほぼ同じであるのですが、西洋の剣は太いの細いの長いの短いのといろいろあるので、イメージが固まらないという理由も大きいです。


 ところで、台所で使う包丁にも、片刃と両刃があります。しかし、これは上下両方に刃があるのではなくて、刃先の形状です。


 片刃は片側だけ削り出してとがらせて、その裏側は平らです。

 両刃は表裏から削りだしてV字型に尖らせたもの。

 

 和包丁には片刃が多く、西洋包丁には両刃が多いとか。

 これもまた、和包丁は切れ味を重視し、西洋包丁は使いやすさと丈夫さを重視しています。


 そうそう、諸刃と両刃の漢字には同じような意味があって。

 どちらの漢字を使ってもよかったり、また、それぞれに微妙な使い方の違いがあったり……。


 刀と剣の違いを極めようとすると、その作りと歴史から考察しなくてはならないかなり難しい問題です。


 う~~ん、困った、困った……。

 しかたがありません。しばらくは、刀と剣という言葉を適当に混ぜて使うことにしましょう。そのうちに、なんとかなるでしょう。(笑)



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