第24話 南衙の兵 ≪1≫


№19 南衙なんがの兵



 白川紺子さんの『後宮の烏』、第1巻の59ページより抜粋。



『ある昼下がり、遊里を管理する教坊使が、南衙の兵をつれてやってきた。妓家の皆が時間をかせいでくれているあいだに、母は幼い寿雪をつれて逃げた』



 お題の『南衙の兵』からずれるのだけど。

 白川紺子さんの文章は、無駄がなく的確でいい。黙読していても、上手い文章だなあとは思っていたけれど、こうして書き写してみると、そのよさがよくわかる。


『後宮の烏』はライトノベルのジャンルで、中華ファンタジー小説。


 読者層も若い人をねらっているのだろうと思うけれど、白川紺子さんの文章は意外に硬派。それで90万部のベストセラーだ。

 硬く少々難しい文章でも内容がよければ、読まれるということだろう。


 ある程度の年齢を重ねた書き手がライトノベルやファンタジー小説く時、「どうせ、ライトノベルだから、ファンタジー小説だから」と、文章の質にこだわらないのはよくないと思う。


 とくに40歳も過ぎた大人が、ライトノベルだからと、その内容や文章は軽いほどいいという思い込みはよくない。そういうものは、たとえ読者が若くても、上から目線的に透けて見えるものだ。


 子どもの読む童話だから、子どもが喜ぶように、内容も文章もお子様向けにして書けばよいのというのと、同じ感じだろう。


 そしてまた、よい文章を書くということを心がけて常に切磋琢磨するのは、ライトノベル作家のプロであっても、趣味で書くアマチュアであっても、長く書き続けられるコツでもあると思う。




 話を『南衙なんがの兵』に戻して……。


 第20話の№16の≪禁軍きんぐん≫で書いたように、宮中を守る軍隊は北衙禁軍ほくがきんぐん。それに対して、宮中の外である都の街の治安にたずさわるのは、南衙なんがの兵。


 北衙とか南衙とかの言葉で軍隊を分けるのは、<唐>の時代のようだ。


 前にも書いたことだけど、『後宮の烏』の舞台設定は<唐>の時代をモデルにしているのではないかと想像する。


 私は古代中国は『史記』から入ったので、<唐>の時代については興味がなかったというか、よく知らないというか。でもいろんなライトノベル系中華ファンタジー小説を読んでいて、『後宮の烏』と同じく、舞台設定は<唐>の時代が多いということに、最近、気がついた。


 <唐>の時代だと、宮中でのしきたりから庶民の暮らしぶりまで、けっこう参考文献が残っているみたいだ。日本の研究者の出版物も多い。


<唐>は文化爛熟の時代だったようで、何ごとにも華やか。人々の暮らしぶりも自由闊達。


 そして何よりも<唐>の時代は、日本では奈良平安時代。

 遣唐使が盛んで、中国文明が日本に入ってきていた。日本のそのころの文化文明は、中国をお手本としたものが多いので、実際的に想像しやすい。


 もしこれから中華ファンタジー小説を書く人があれば、小説の舞台や時代はどうであれ、政治の仕組みや宮中と後宮のありかたや庶民の暮らしぶりなど、<唐>の時代を参考にすると書きやすいと思う。


 そして、書こうと思うものが、華やかな中華ファンタジー小説でなく国盗り物語りや戦闘ものであるのなら、やはり『史記』とか『三国志』あたりをモデルにするといいのではないだろうか。




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