第22話 雲中書令 ≪2≫


 №17 雲中書令うん・ちゅうしょれい



 白川紺子さんの『後宮の烏』の第1巻48ページに登場する、中書令(現代風にいうと秘書室長)の雲明允うん・めいいんさん。


 しかしながら、『後宮の烏』においては、この雲明允さんの肩書は中書令だけではありませんでした。


『白髭が見事なこの宰相さいしょうは……』と雲明允の紹介文は続くので、彼は中書令でもあり宰相でもあります。ということは、『後宮の烏』では、中書令という役職は宰相も兼ねているという設定となっています。


 雲明允は政にも携わっているようです。

 ご高齢としては、かなりハードな職務のように思われます。




 宰相さいしょうとは、古代中国の官職。

 皇帝を助けて政治を行う最高の行政首長のこと。


 いまの日本でいうところの内閣総理大臣に相当します。ただし1人とは限らず、数人に及ぶこともあるとのこと。華流時代劇ドラマを観ていますと、右宰相・左宰相という言葉がでてきます。


 前回の≪1≫でも書いたように、中書令という役職は古代中国の時代や国によって、微妙にいろいろと変化しています。そして、中書令という役職が宰相も兼ねているとなれば、やはりこれもまた、『後宮の烏』の時代設定は唐ですね。




 そしてまた、雲明允さんは、皇帝・高峻がまだ皇太子であった時の、東宮とうぐう大師たいしでもありました。


 東宮とうぐうとは、皇太子のこと。


 後宮での住まいが東にあったので、それから皇太子そのものを意味する言葉にもなったとか。そして、大師たいしとは、勉学の師であり、常に傍らにいて補佐をする立場の人のことをいいます。


 私の書いている中華ファンタジー小説の『②白麗シリーズ(安陽編)』では、この雲明允さんをモデルにして、第四皇子に勉学を教える雲流先生を登場させています。


 大師という立場も、またその名前に雲という字を使ったのも、完全なパクリ……、いえいえ、『後宮の烏』へのオマージュです。(笑)


 この雲流先生には、「読むべき書はすべて読みつくした。皇子が識るべきことは、すべてわたしの頭の中にあります」と、作中でかっこいいセリフを言わせてみました。 


 大師は勉学の師でもあり、またいつも傍らに控えて皇太子の言動に目を光らせていて、皇太子がうかつなことをしたり言ったりでもしたら、常にその間違いを訂正していたに違いありません。


 帝王学に縛られた日々。案外と、皇太子という地位は学ぶことが多くて、取り巻くのも大人たちばかり。子どもらしく遊んで楽しむこととは無縁だったのではと想像してしまいます。


 皇帝という地位もまたしかり。

『後宮の烏』の皇帝。高峻もまた心を許せるのは宦官であり武官である、待衛の衛青のみ。なかなかに孤独そうです。


 若造が絶対権力者の地位に就き、その下に仕える者たちは自分よりもはるか年上の海千山千の食わせ物ばかり。よい着物を着て美味しいものを毎日食べられて、後宮には美女がたくさん……、でも、私なら皇帝という地位はごめん被りたいものです。




 

 話が逸れてしまいました。


『後宮の烏』で雲明允さんが登場するシーンは、『正午の知らせる太鼓の音が響き、……、日の出前に参内した官吏たちも、帰宅の時間だ』と書かれています。


 古代中国の政治の場である朝議は、まだ暗い早朝から始まり、正午で終わったそうです。


 馬車にのろのろと揺られての通勤だと、もしかして毎日、真夜中に屋敷を出るのかと想像していたら、なんと朝議に出る高官たちは、7日間くらい宮中に詰めていて、休日をとっては自宅の屋敷に戻るという勤務実態だったとか。


 高官である彼らは、宮中内にも住む場所を持ち、城壁に囲まれた都にも広大な屋敷を持ち、地元に戻れば、日本でいうところの荘園のような土地付きの屋敷も持っていたことでしょう。

 

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