第19話 幽鬼


 №15 幽鬼ゆうき



 白川紺子さんの中華ファンタジー小説『後宮の烏』の主人公・烏妃は、魔術が使える。成仏できずこの世をさまよっている人の霊魂を呼び出すのも、お手のものだ。


 そして彼女に呼び出された死者の姿は、埋葬された時の死に装束をまとった姿ではなく、まさに死んだ時、もしくは殺された時のままの姿だ。縊死だと首に布を巻きつけていたりする。


 ところで、この烏妃に呼び出された死者の呼び方は、『後宮の烏』では幽霊ではなく<幽鬼>。そこで、私の頭の中に「?」が点滅した。(笑)




 私はこの年齢(70歳)になるまで、けっこうたくさんの本を読んできたつもりだが、事実をいうと<幽鬼>という言葉を知らない。

 なんか、すごく普通に使われていそうな言葉なのに。


 そうか、中国では幽霊のことを<幽鬼>というのかと、納得したつもりで読み進めていたのだけど、ずっと頭の中で引っかかっていた。それに、化けて出て人に悪さをするでもなく、ただこの世に未練があってさまよっているだけの幽霊に<鬼>という字を当てるのも、なんか違和感がある。


 それで、今回、調べることにした。




 なんとなんと、<幽鬼>という言葉は、今の中国でも古代中国でも使われていないらしい。そして、日本の昔の書物の出典も、いまのところ浄瑠璃じょうるりの演目の中に1つだけあるらしい。


 ……と書かれている、その大学の先生のサイトによると、最近の日本の書物で初めて使われたのは、江戸川乱歩の小説の題名であるらしい。




 どうやら<幽鬼>というのは和製漢語らしく、最近になってライトノベルでさかんに使われ始めたようだ。

 それで、カクヨムで小説を書くようになってライトノベルの存在を初めて知った私が、<幽鬼>という言葉を知らなかったのも、うなずける。



 鬼という言葉は、中国では死者の魂をいう。


 それが日本に伝わって、角や牙のある妖怪類のことをいうようになった。しかしながら、<幽鬼>という言葉は、中国にはない。最近、日本で作られた。


 言葉というものは、生き物のように時代の流れの中で生まれ、そして、姿をかえていく。面白いものだと思う。




 ところで、言葉が時代の流れの中で生まれたり、変化したりするように、その言葉の持つイメージもまた変化しているように思う。


 経帷子きょうかたびらを着て手を前にだらりと垂らして足がなく、「うらめしや~~」という幽霊像は、古臭い。いまのライトノベルで描かれる幽霊像は、ゾンビふうだ。歩いたり這ったりして、積極的に人を襲い噛みつく。


 そうそう、イメージが変わるというのであれば、異世界ファンタジーで登場するエルフもそうだ。


 エルフって、耳のとがった絶世の美男美女かと思っていたら、昔の本の挿絵のエルフが、森の奥深くに住む蛮族という感じで、醜く描かれていたので驚いたことがある。エルフが美男美女になったのは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』に出演したオーランド・ブルームが始まりではないかと、私は思っている。




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