第11話 殿舎・階・吊り灯籠

 №8 殿舎でんしゃきざはし・吊り灯籠とうろう



 <殿舎でんしゃ>とは、御殿ごてん殿堂でんどうやかたのことです。


 白川紺子さんの『後宮の烏』では、後宮の妃嬪たちの住む宮殿や、宮中に建ついろいろな建物の総称を、<殿舎>という言葉で表しています。


 日本の後宮とか大奥だと、ひな人形飾りのように御殿ごてんというのでしょうか。中華もので御殿ごてんは、下々の会話の中で「すげえ、大きな御殿だ!」でもいいと思うけれど、地の文だとちょっと違和感ありのように思うのですが。


 私の建物についてのイメージは、貧しい人たちが住む建物は小屋とか家。

 金持ちで広い庭もあるようだと屋敷。

 そして宮中内では殿舎。

 

 しかしながら、いま書いている白麗シリーズの③で、はたと書く手が止まりました。


 あやかしの美女・逞華嬢てい・かじょうが住みついて私娼を営む寺の大伽藍がらんは、なんといったらいいのかしら。人が生活する場でもないので屋敷ではないし、御殿でも殿舎でもないし……。


 それで今回はやかたという言葉を使うことにしました。


 館という言葉は、大きい建物であろうと読者に想像させることが出来るし、でも、女や子どもたちが賑やかに住む家族のためだけの建物でもないとも、思ってもらえるのではないでしょうか。


 ところで話は逸れるけれど、私はこうやって1つ1つの言葉を味わいながら、そして自分だとどういう言葉に置き換えるかと考えながら、小説を読み進めます。それでものすごく遅読です。


 もうこの年齢なると、本をたくさん読んでいろんな物語りに出会いたいという欲が薄れてしまいました。不遜だけど、「ああ、この物語りはあのパターンだな」と、思ってしまうことが多いです。


 それで最近は、「おお、これは面白い!」と、ストーリーとともに文章にも心惹かれる小説に出会ったら、それを味わい尽くすという読み方に変えています。


 小説を読んでの読後の感想が「これはおもしろい、おもしろくない」の2つでは、せっかくの読書時間が、自分の知識の栄養になっていない気がするのですが。




 ……ということで、逞華嬢の住む妖の建物はやかたとしました。となれば、次は、白川紺子さんの『後宮の烏』より、<階>と<吊り灯籠>の出番です。




 <階>の読み方は


 絶対に、中華ファンタジー小説では宮中の殿舎の階段かいだんは、きざはしです。そしてそれも玉石ぎょくせきで造られたきざはしです。


 月や星の輝きを受けて、大屋根の瑠璃瓦も濡れたように輝いているのだろうけれど、玉石の階も鈍く輝いているに違いありません。

 美しくありますが、なんとなく妖しくもあります。




 そして最後は、殿舎の大屋根の軒端に、ぶら下がった<吊り灯籠>。


 いいな、この<吊り灯籠>。最高に風情がありますね。


 なんという華流時代劇ドラマであったか忘れましたが、宮中で、軒端にぶらさがるこの<吊り灯籠>に灯りをともすシーンがありました。長い長い梯子はしごを軒にかけて、何人もの宦官でやっていました。


 それが毎晩なのだから、ほんとうに最高の贅沢だと思ったことです。


 もし何億円という宝くじがあったら、家を建て直して、私も軒端に吊り灯籠をぶらさげたいものです。(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る