第12話 灯籠・帳


 №9 灯籠とうろうとばり


 白川紺子さんの中華ファンタジー『後宮の烏』は、帝の高峻こうしゅんが侍衛の衛青えいせいを供にして、夜に、烏妃うひの殿舎を訪れるシーンから始まります。


 烏妃の寿雪じゅせつはまだ少女ではありますが、魔術を使い、妃でありながら夜伽をすることのない特別な妃という設定です。そして、帝の高峻が烏妃の殿舎を訪れるのは、この夜が初めてで、寿雪の姿をみるのも初めて……。


 なんとまあ、読者の気持ちをぐっとつかむよい書き出しですね。



 ……ということで、『後宮の烏』を読み返しながら、中華ファンタジー小説に使われる語彙を学びつつ、中華ファンタジーの真髄にも迫りたいという目標を立てている中華ファンタジー初心者の私です。


 恥も臆面もなく、『後宮の烏』を真似して、自作小説を書き散らかす日々ですので、自作小説<白麗シリーズ③>の始まりも、登場人物が夜に不気味なやかたを訪れるシーンから書くことにしました。



 前回までのエピソードでは、『殿舎でんしゃきざはし・吊り灯籠とうろう』という、『後宮の烏』に出てくる言葉を頂いて、館の外見を描いてみました。


 そして今回書いたエピソード『山道に転がる惨殺死体』では、『灯籠とうろうとばり』という言葉を使って、謎の美女・逞華嬢てい・かじょうの住む館の部屋の中の設えを描いてみました。


 言い訳ですが、決してパクリではありません。白川紺子さんの『後宮の烏』へのオマージュです。そしりは、1年後にこの物語りを完結してから受けることにいたします。(笑)




灯籠とうろう


 夜の烏妃の部屋を明るくしていたのは、蓮の花の形をした<灯籠とうろう>です。


 しかし、日本では<灯籠とうろう>には石灯籠という言葉があるように、戸外の灯りというイメージがあるとおもうのですが。部屋の中での灯籠だと、葬儀やお盆の時の祭壇の横に置く<回り灯籠>しか、私には思い浮かびません。


 日本の時代ものだと、部屋の中の灯りは行灯あんどんとか燭台しょくだいだと思います。それで、白麗シリーズ①では、行灯という言葉を使ってみました。

 しかし、行灯あんどんはいかにも日本の時代劇っていう感じですよね……。



 ところで、烏妃の部屋にあるのは、はすの花の形をした<灯籠>。



 日本の時代劇ドラマでは、部屋の中に、はすの花の形をした行灯が置かれているというのを見たことがありません。しかしやはり『後宮の烏』ではすの花の形をしたということわりがあれば、それは行灯あんどんではなく<灯籠とうろう>がふさわしいことでしょう。


 それにしても、花や鳥や金魚などの物の形をした<灯籠>というのは、華やかで可愛らしくて、いかにも中華ファンタジーという感じです。でも、やはりしつこく書くと、日本での灯籠のイメージは、お盆のときの仏さまの祭壇ですよね。(笑)


 前回に宝くじが当たったら家を建て替えて、屋根に吊り灯籠をぶら下げたいと書いたのだけど、その時には部屋の中には行灯や灯籠を置いて、柔らかな間接照明を楽しんでみたいものです。


 天上の真ん中から白々と明るい蛍光色に照らされるというのが、最近、なぜか味気なくてつまらなく思えます。




とばり


 日本の昔の家屋だと部屋の仕切りは障子しょうじふすまですが、華流時代劇ドラマを見ていると、古代中国のそれは垂らした布<とばり>です。


 いまでいうところのカーテンみたいなものです。

 それも1枚の広い布に縫ってカーテンレールにぶら下げるという形ではなく、細長い布が幾重にも重なるような使い方をしていることもあります。


 部屋の中に垂れ下がった美しい<とばり>。

 これもまた中華ファンタジーには欠かせない華やかな小道具です。


 <とばり>と入力しようとしたら、<とばり>という漢字も出てきました。字は違うけれど垂れ幕という意味はまったく同じものみたいです。


 そして両方の漢字を合わせて<帷帳いちょう>という言葉もあるみたい。

 同じ中華ファンタジーでも男性が主人公の史実ものや武闘ものだと、<帷帳いちょう>というちょっとかたい言葉を使うのもいいかも知れないですね。


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