第6話 蓮容餡の饅頭
№5
気の強いしっかり者のヒロインが甘いお菓子が大好きで、お菓子を前にすると今までの頑な態度も何処へやらという設定は、物語りを面白くする。
少女が主人公の場合、よく使われる設定だ。
自作の『白麗シリーズ』の白麗も、甘いお菓子が大好きだ。
彼女の場合、喋れないという設定だし、独白のシーンもないので、何を考えているのかわからない。優しい心根の持ち主ではあるが、天界人でもあるので、超我がままでもある。そんなヒロインに人間臭さと可愛らしさを持たせるのに、甘い菓子に目がないというのは、便利な設定だ。
……と、私が思いつくくらいだから、ライトノベルのファンタジーではそういう設定が多い。
白川紺子さんの『後宮の烏』の主人公・烏妃も甘い菓子が大好き。
帝・高峻の頼みごとが煩わしくとも、手土産に甘い菓子を持ってこられると、ついつい殿舎に引き入れて聞いてしまう。
この<カクヨム>でも、甘い菓子が大好きなヒロインが登場するファンタジーを読んだことがあるような気がする。
しかしながら、この甘いお菓子というのが、書くにあたってなかなかに曲者なのだ。
小説の舞台が現代であれば、○○のケーキとか××のチョコレートとか△△の羊羹とか、その名前を書くだけで「ああ、あれは絶対に美味しい!」と、読者に思わせるものが存在する。使われる食材も作り方も想像できるものが多い。
書き手が女性だと、こだわりを持って自分で作ったことがあるという人も多いのではないか。
リアリティ感を出すのに、困ることはない。
しかし、これが古代中国を舞台とした中華ファンタジーだと問題だ。
古代中国人がどんな甘いお菓子を食べていたのか、それはなんという名前だったのか。精製した小麦粉とかバターとか、そもそも砂糖というものもあったのか。
考え始めるとこれほどめんどくさいものはない。
それで、全部一括りにして<甘いお菓子>で誤魔化していた。
しかし、誤魔化すという書き方は、一つの架空の世界を文字にして流麗に繰り広げようという、自分の作家としてのポリシーに反することだ。読者に「これは美味しそうなお菓子だ!」というものを作り上げて、それを見せびらかしたいではないか。
それで、白川紺子さんの『後宮の烏』の一番初めに出てくる甘いお菓子<蓮の実の餡が入った饅頭>を、『後宮の烏』へのリスペクトも込めて、白麗シリーズの中で再現しようとずっと考えていた。
そして先日、ついにそのシーンを描くことになった。
英卓が白麗と別れる決心をする場面で出てくる甘いお菓子だから、舞台設定も最高だ。
蓮の実の餡<蓮容餡>の饅頭は、今でも作られている。
ネットで検索すると、作り方はいくつもあった。適当に混ぜ合わせて再現してみた。それから荘家の厨のイメージは、以前にTVのドキュメント番組で見たお寺の広い台所のイメージだ。
読者にはつっこみどころ満載のシーンだったと思うけれど、本人としては、「これが架空の世界を舞台にしたファンタジー小説を書く醍醐味だ」と、すごい満足感。
白麗シリーズは③へと続くので、③でも<甘いお菓子>作りに挑戦してみたい。
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