第4話 宮女 ≪2≫


№3 宮女


 その1に続いての≪宮女≫・その2です。


 ≪宮女≫は後宮で働く女たちのことですから、後宮で飯炊きや洗濯や掃除をする女も、≪宮女≫という名前で一括りにしてよいのかという疑問について……。


 いろいろと考えてみたのですが、やっぱり違うのだろうなと思います。


 というか、中華ファンタジー小説において、≪宮女≫というものは、若くて美しくなければ。そして、妃嬪たちに仕えて、その妃嬪たちの元を訪れる皇帝の目に留まれば、いずれ玉の輿も狙えるチャンスがなければ。 


 でなければ、中華ファンタジー小説においての後宮ものは成り立たないではありませんか! (笑)


 ≪宮女≫の中でも、位の高い≪宮女≫は女官にょかんといいます。


 古代中国でも女官という言葉を使っていたようですが、皇帝をみかどというと日本人は平安時代を連想するように、女官という言葉もまたちょっと、中華ファンタジー小説から逸れてしまうかもしれません。




 …で、話は元に戻って、粗末なお仕着せを着て髪を簪で飾ることもなく、手にあかぎれをこさえては炊事に洗濯にと後宮で働く女は、≪宮女≫でなければなんと呼べばいいのでしょうか。


 下女・下働き・奴婢……。


 白川紺子さんの『後宮の烏』では、ヒロインの烏妃に仕えて身の回りの世話をする老女に、官婢という言葉を使っていました。そして、カクヨム友のヒナタさんから、婢女・端女という漢字を使って、<はしため>という情報が!


 そうですね、下女より婢女のほうが、中華風らしい感じがしてきます。


 下女・下働き・奴婢・官婢・婢女・端女。


 中華ファンタジーの後宮ものを書くのだと決めて、いざ、パソコンに向かったものの、皇帝と宮女の定義で早々に躓いてしまったのでは、小説を書こうという気も失せてしまいそうです。





******


 ところでいま私は、華族出身で明治天皇の皇后に女官として仕えた山川三千子さんの『女官』という本を読んでいるのですが。


 興味をひく面白い記述がありました。


 この山川三千子さんは三年間宮中にいたのだそうですが、その間で、炊事洗濯掃除に携わる下働きの女たちの姿を、なんと一度も見かけたこともなく、ましてや話もしたこともないとのことです。


 ということは、明治天皇もその皇后もまたそうであったのでしょう。


 卑しい身分のものたちは、宮中では、まるで存在しないがごとく扱われたということです。というか、やんごとなきお人の目に卑しいものの姿が見えるなど、とんでもないことだったのでしょう。


 そして、この『女官』という本の中で、明治天皇や皇后と親しく話して笑いあったということを、それは滅多にない楽しい思い出として山川三千子さんは書いています。そのことから、位の高い女官であっても、天皇や皇后と馴れ馴れしく接することはなかったのではと想像します。


 皇后にはその家柄も地位も相応しいご友人がいて、その人たちが頻繁に宮中を訪れてはお相手をなさっていたご様子です。


 皇帝や妃嬪たちにとって、≪宮女≫は、あくまでも主人と使用人の関係です。

 華流時代劇ドラマのように、皇帝や妃嬪が≪宮女≫たちを相手に、心を許してお喋りに花を咲かせるということはなかったのかも……。


 それから山川三千子さんは、自分が給金を払う形で、自分のための下働きの女を雇っていました。


 それで納得しました!


 隙もない美しい恰好をして、常に妃嬪の傍にはべっている状態では、やはり自分自身も身の回りの世話をしてもらう下女がいなければ、なかなかに難しいことでしょう。


 そして、この山川三千子さんは、何不自由のない暮しのお嬢さまでありながら、社会が見たくて(働きたくて)女官の募集に応募したとのこと。そして、本の中には、のちに大正天皇となる皇太子の誘惑をさりげなく退けたらしい記述まであります。


 女性の皆が皆、皇帝に見染められることを目的として後宮で≪宮女≫として働いていたのではないのだなと思い、またそういう女性は古代中国にもいたのではと思います。


 古代中国は、いまの時代に生きている私たちには考えもつかないような厳しい身分制度があり、しかしそういう世界でもいろいろな人がいろいろな考えを持って生きていたことでしょう。


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