第3話 宮女 ≪1≫
№3 宮女
≪宮女≫は、文字通り、後宮で働く女たち。
しかしながら、中華ファンタジーで後宮を書いていて、その言葉の使い方に一番頭を悩ませた言葉だ。
テレビでよく見る中華ドラマの影響だと思う。
≪宮女≫という言葉には、皇帝に見染められれば、いつでも妃に成り得る若い女という華やかなイメージがある。そのために、後宮で下働き専門の女たちや老女たちの書き分けに悩んだ。
後宮で働く女たちであれば、飯炊きや洗濯や掃除担当の女たちも≪宮女≫といってよいのか。妃たち仕える女たちの中にも老女はいるだろう。その老女も≪宮女≫といってよいものか。
いろいろと調べてみたが、いまだにその明確な基準を得ることが出来ない。
皇帝を、王とするか帝とするか天子とするか。
そのことでも大いに悩んだが、この≪宮女≫の使い方はそれを大きく超える難問だ。
そういえば、№ 2の≪妃嬪≫でも書いたように、皇帝の妃たちにもその位に応じていろいろな名称がある。そしてまた、皇帝の男の子どもたちにも、皇子に太子に皇太子と、これもいろいろな呼び方がある。
それぞれに知らないと言って書かずに済ましてはおられない問題だ。
話は横道にそれるのだけど、ものすごく面白いストーリーは頭にあるものの書いていてエタってしまうという原因も、使うべきふさわしい語彙を知らないということが関係しているのではないかと思う。
小説を書くことにおいて、ストーリーと文章と語彙は、三位一体だ。
この3つが揃ってこそ、読ませて楽しませる小説だ。
ストーリーを考えるのが好きというのと同じくらいに、文章を練ったり多くの語彙を知るための<学び>も好きだというのは、作家の条件ではないかと思う。
ところで、話はますます横道に逸れてしまうのだけど、この用語も含めた語彙、意外と現代を舞台にした小説のほうが難しい。
殺人事件を扱ったミステリー小説を例にあげると、警察関係の特殊な用語や、医学関係の語彙も必要だろう。
完全犯罪のトリックを考えるのと同じくらいに、これらの用語や語彙を調べて知るということに時間を割くことが、ミステリー作家の条件になるように思う。
また、言葉は生き物だ。
現代においては、たった10年であれ時間が過ぎれば、それは陳腐な死語ということもおおいにある。
例えば、携帯とスマホ。いまは刑事さんもスマホかな。(笑)
若い人の使う言葉なんかにも、いろいろとありそうだ。
その点においては、意外や意外、ファンタジー小説のほうが用語や語彙に関しては誤魔化しが効く。
ファンタジーの世界で、たった10年で使えなくなってしまった<用語>なんて存在しない。「今どきの若い人は、そんな言葉遣いはしない」なんて、突っ込まれることもない。
でも、だからといって、現代を舞台にした小説より、ファンタジー小説のほうが書きやすいと言えるかというと、そうでもないような……。
ああ、そうか。
現代小説は自分が生きて住んでいるということで、その世界観は見て聞いて知っているのだけど、それを表現する用語と語彙が面倒で。
ファンタジー小説は用語と語彙の誤魔化しが効くぶん、世界観を自分の想像力を駆使して、一から作り上げなくちゃいけない大変さがあるということか。
≪宮女≫の話から逸れてしまったので、その2に続きます。
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