第2話 妃嬪

№2 ≪妃嬪ひひん


 ≪妃嬪ひひん≫という言葉の指し示す意味は、日本と中国でまた時代でも微妙に変わってくるようですが……。妃は皇帝や皇太子のくらいの高い妻の呼び名で、嬪は皇帝や皇太子のくらいの低い妻の呼び名だそうです。


 しかしながら、私は自分が中華ファンタジー小説を書くまで≪妃嬪≫という言葉を知りませんでした。それもあって、自作の中華ファンタジー小説では、後宮に住む皇帝の妻たちは、わかりやすく≪妃たち≫と表現しています。


 でも≪妃嬪≫と書いた方が、いかにも中華小説らしく、後宮の美しく着飾った妃たちの雰囲気が出ているように思われるので、以後は≪妃嬪≫という言葉を使ってみようかな。




 ところで、皇帝の正妻は皇后です。


 後宮に妃と嬪は数多くいても、后と呼ばれる女性はただ1人だけ。つまり、皇帝の妻の位としては、后・妃・嬪となります。そうなると、正確には、後宮に住まう皇帝の妻たちは、≪妃嬪≫ではなく≪后妃嬪≫となるのではないでしょうか。


 しかし、后はただ1人の特別な存在。また、后の位はその他大勢の≪妃嬪≫とは比べようもない唯一無二のもの。≪妃嬪≫の中に、后を加えるなどとはとんでもないという考え方があるのかも知れません。


 下世話な言葉で言えば、后は正妻、≪妃嬪≫は妾たちとなります。

 しかしながら、后妃という言葉は后そのものを意味することもあるので、そこのところの使い分けを正確にしようとするとなかなかに難しいことになったりします。


 そうそう、古代中国の結婚制度は『一夫多妻』だと思っていたのですが、本当は『一夫一妻多妾』というのだそうです。そして、この一妻と多妾の位の間には、身分制度が崩れた現代に住んでいる私たちには理解しがたい、高い高い壁が存在しています。




 さて、話をもとに戻して、後宮に住む多くの美しい≪妃嬪ひひん≫たち。


 それぞれにくらいがあって、それぞれに後宮の中で住む建物が違います。一つの建物(殿舎)に、複数の妃嬪で住むこともあったような。皇帝のお渡りの時は、嫌な感じですね。しかし、嫉妬は厳禁だったのかも。


 古代中国の時代や国により、妃嬪のそれぞれの位に名称があり、その位に当てはまる≪妃嬪≫の数も決まっていたとか。また、住む建物にもそれぞれ名称があったとか。


 そのために、≪妃嬪≫は位や、住んでいる建物の名前で呼ばれていたようです。

 身分制度が厳しかった時代です。身分が下のものが、身分が上のものを名前で呼ぶことはなかったことでしょう。

 

 しかしながら、≪妃嬪≫の名前を位や建物の名前にするのは、かなり読者にとっては読みづらいと思われます。位や建物名前は3文字か4文字の難しい漢字を使った熟語となることが多いからです。その上に、皇子を生んだとか、またはその反対に罪を犯したとかで、≪妃嬪≫の位は常に変わりそれにつれて住む建物も変わります。


 ≪妃嬪ひひん≫である女たちの呼び名をどうするか。


 中華ファンタジー小説を書く作家の頭の痛い問題であり、また、いかにも中華ファンタジー小説らしさを醸し出すための、作家の腕の見せ所でもあろうと思います。


 ところで、中華小説を書く男性作家は、≪妃嬪≫の名称にはあまり興味がないようです。


 後宮の話であるのに、≪后妃嬪≫を、正妻と妾というあまりにも露骨な2つの言葉だけで区別していた、男性作家の書いた中華小説を読んだことがあります。その通りといえばその通りなのでしょうが、雰囲気を大切にする女性作家の書く中華ファンタジー小説では考えられないことですね。



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