虚言癖の夢日記
「
ピンポーン、と家の中に響き渡ったドアチャイムに飛び起きる。
現在の時刻は昼過ぎ。午睡の時間を貪っていたが、その時間は自分にとっての至福だったため、不快感を持ちながら玄関まで重い足取りで進む。
こんな時間に自分の至福を奪いやがって!と少々身勝手な怒りを静かに持ちながらサンダルを履き、玄関のドアノブに手をかける。
クルッと回し、ドアを開けるとそこには随分珍しい顔が見えた。
「久しぶり……だよね?」
「あ、あぁ、そうだけど……」
「よかった。東くん、今時間ある?」
「え、うん。あるけど……」
「じゃ、ついてきてくれる??」
「は?…なんで」
「今日が何日か分かってる?」
「今日は……」
腕についている腕時計を見るような動きをするが、休日の昼にそんなものをつけているわけもなく、小さくため息をつきながらポケットのスマホを取り出す。
……元カノの前で何やってんだよ、俺。
「今日は、2月14日だな。」
取り出したスマホの真正面にそう、映った。
「うん、それで??」
彼女の顔が小悪魔みたいにニカっと嬉々とした顔に変わる。いつもの企んでいる顔だ。
「……バレンタインデー、ですね……」
「……そー。じゃ、うちに来てね。」
とびっきりのアイドルみたいな笑顔を向ける彼女は、自分には眩しすぎる。
「はーい、上がって上がって」
「お邪魔します……」
と、歯切れの悪いあいさつを言い、4年ぶりに彼女の家に上がる。彼女は家は4年前から全く変わっていない。
「じゃー、そこに適当に座ってて」
「りょーかい」
と、いつも通りのキッチンから遠い方の座椅子に座る。彼女、神崎さんはパティシエを目指している。なので、こういうお菓子の味見やらプレゼントやらは慣れっこだった。
久しぶりに彼女のチョコを食べられるのに俺はどうしてあんなにドギマギしていたのだろう。別にそんなことしなくたって…。
「はーい、こちらチョコケーキでーす!」
と、ご立派なホールチョコケーキがテーブルに置かれた。
「えぇ!?これ、作ったの?陽菜が?」
「えぇそうよ。もっと褒めていただいてもよろしくてよ?」
「毎年褒めてるからなぁ。でも今年は今までよりもっと凄い!流石、俺の嫁!」
「……」
「あれ?」
ちょっとふざけて言ったのをきっかけに彼女の返答が全くなかったので、怒らせてしまったかと彼女の方を見てみると。
「……顔背けてどうしたの?」
「いや、なんでもない!早く食べよ!!」
「本当にか?本当に何も……」
「本当に何もないってば!!?早く食べるよ!!」
と彼女に強引に話を切られてしまった。全く。
「それで?美味しかった?」
「……あぁ。それはもう、頗る、だな。」
「その表現好きだよね、ずっと使ってる。」
「不満か?」
「いーや。影くんって感じするから、ずっと使ってて。」
「そーかい。」
時刻はまさにお菓子の時間を迎えようとしていた。さっきまで昼食後の惰眠をしていたのに、今まさに微睡みそうになっている。
「うん?眠い??」
「あぁ。さっきまで昼寝をしていたはずなんだがなぁ」
「ならこっちに来たまえ。いい枕を授けようじゃないか。」
「うーん?」
と、彼女の方に行くと、彼女は自分の太ももを軽くポンポンと叩いた。
「膝枕したげる」
「わーい」
と、子供みたいなテンションで膝枕を堪能する。まるで昔に戻ったような気がするのだ。
「そーいえば、頭を乗っけるのは太ももなのに、なんで“膝枕”っていうんだろうね?」
「しらーん。今はそんな頭をうごかせるような状態ではないのでーす」
「ふふ。この状態の影くんはかわいいなぁ」
「そうかぁ?」
「そうだよ。子供を寝かしつけている気分になるし、それに_____」
と、寝落ちという言葉が似合うような二度目の午睡は最も幸福な状態で迎えることができた。
「っは!」
飛び起きる。窓から差し込む光が、自分の意識を覚醒させた。
「ごめん!陽菜、俺……」
と、訳のわからないことを口走る。
「……何言ってんだ、俺…?」
陽菜は4年前に亡くなったろ。なんで今更、あいつの名前を……
ふと、ベッドの横にあったデジタル時計を見る。『2/14 13:24』を時計は表示していた。
あぁ、そういうことか。彼女からチョコを貰うような夢でも見たのだろう。きっと、この日だからだろうな。
4年前の今日に彼女は亡くなった。そんな偶にある、不幸だったって話だ。
……でも、未だに引きずってはいるんだろう。
とりあえず、こんな時間なんだし昼食の準備でもするか。
そう思い立ち、キッチンの方に向かう。どうせあるのはカップ麺か、夏の残りの蕎麦か素麺くらいしかないのだが。まぁ、今日はカップ麺で済ませて……と思考を巡らせていると。
ピンポーン、と家の中に響き渡ったドアチャイムにびっくりする。
なんだ……?今日は何も配達なんか頼んでなんかないぞ……と思いながら玄関の方へ向かう。
宗教とかの勧誘だったら面倒だなぁと考えながらサンダルを履き、ドアノブを回し、扉を開く。
「久しぶり……だよね?東くん」
そんな聞き覚えのある声に。
「……は?」
と素っ頓狂な声を出すしかなかったのだ。
ってね♪」
短編集-情感- 冬結 廿 @around-0
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