第1話 緋白

物心ついた頃から、この世界は退屈だった。

全てに理由を求められ、心が理由なく死ぬことを許してくれない。世界にはもっと多くのワクワクするようなことがあると思っていた時もあった。だが、同調圧力を心に働かせ、同じように生きそして死んでいく人間に吐き気がした。

結局、世界は一色で染まっているように感じる。

いつも、見上げると灰に染った空がそこにはあった。枯れた土地に積もる灰の山。その景色は、この地を弔っているように見えた。この灰は、私達が触れると焼け爛れるそうだ。いつか、この灰は私達をも弔うものになるかもしれない。


寝起きはいいほうだと思う。少なくとも、不愉快ではないからそう言えるだろう。睡眠は時間の無駄だと思った時もあったが、何も考えなくていい時間として必要であると、自分の中では完結した。実際、必要だから眠くなるし、寝る。それが真理というものだろう。

寝起きはいいが寝癖は悪い。いい加減髪の毛を切ったらどうなのかと言われたりもするが、そこまで伸びている訳でもないし、正直髪を切りに行くのがめんどくさい。そんなこんなで寝癖と櫛の格闘には毎日最低5分はかかる。

朝の時間は緩慢としている。外の忙しない世界と隔絶されている。テレビはつけない。朝のニュースなんか流れて来た日には、この世界は崩壊してしまう。忙しなくていい事なんてないと。常に余裕を持つことこそが、生きていく上での一番の知恵だよ。と、数年前に亡くなってしまった祖母の言葉が思い浮かぶ。外の世界に行く準備をするためのこの世界は、必要不可欠なのだ。

いくら緩慢な時間に浸っていたいと考えても、その時は訪れる。リビングから玄関へ行く時のドアをまたぐだけでも世界が少しづつ外のモノになっていく。最初はその世界に対して異質である俺の存在も、徐々に溶け込んでいく。いや、飲み込まれて同化してしまうという方が正しいだろう。そして外に出た瞬間、緩慢とした世界は自分と分離される。

毎日するように霧吹きに水をいれ、小さい鉢植えの世界に立ち続ける小さな多肉に吹きかける。吹きかけられた水滴に太陽の光を反射させ、多肉もおはようと言っているように感じる。

9月になって暑さも少し和らぎ、日によっては肌寒いと感じる日も出てきた。徒歩通学にとってはちょうどいい気候だ。もうセミの鳴き声が風に乗ることは無い。夏の湿気を残した風が肌を掠める。




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煉血のエクメア 丹朱坂 緋織 @yunoro0221

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